桔梗
知っている者達の心配は乱太郎が戻ってこないかもという不安があるからだ。乱太郎もそれは重々承知している。
「多分、確認のために戻されるだけだから…。帰ってこないってことは絶対にないよ」
「なら、いいけど」
乱太郎の言葉に少しだけ引っかかりも感じたが、何も言わないことにした。
「そこにいる四人もそんな訳だから。心配しないでよ」
乱太郎の言葉に後ろを向けば庄左ヱ門、喜三太、しんべヱ、きり丸がそこにいた。
「長くても1週間ぐらい。ちゃんと戻ってくるよ」
いつもの笑顔に皆安心した。この五人には自分の感情が隠せないことは自覚していた。特に負の感情は。だから、乱太郎は笑った。ちゃんと戻ってくると。そんな乱太郎に誰もが安心するしかなかった。
「じゃ、行ってくるね」
「行ってらっしゃい」
「ちゃんと帰ってこいよ」
「待ってるんだからね」
「乱太郎、いってらっしゃい」
「…キミの場所はここなんだからね?」
それぞれの言葉に乱太郎は頷いて帰っていった。五人はそれを見えなくなるまで見送った。大丈夫だと思っていても感情はついていかない。どうしても不安が残るのだ。その中でもきり丸としんべヱは見えなくなってもずっと乱太郎が行った道を見ていた。
「きり丸」
「しんべヱ」
「中に入ろうよ」
三人の言葉に二人は頷くが、足がそこから動かなかった。
「…ダメだなぁ。オレ達」
「乱太郎がいてくれないと…怖いよぉ」
二人は知らずに涙を流す。ちゃんと帰ってくると約束した。約束を破る乱太郎ではないことくらいわかっている。けれど、怖い。乱太郎から離れることが。乱太郎が離れていくことが。
「…きり丸」
「な、庄左エ門。オレ、ここまで弱かったかな」
一人で生きてきた。学園に入るまで生きることを何でもした。けれど、学園に入って土井先生と一緒に住むようになって。は組やい組やろ組の皆とあった。一番は乱太郎としんべヱに会えたこと。一緒に笑って一緒に泣いて一緒に笑った。その一人が居なくなるかもしれない。それだけでも怖い。それはしんべヱも一緒だった。
「嫌だよ。乱太郎がいないと嫌だよ…」
駄々っ子のようにしんべヱは泣く。
「しんべヱ、落ち着いて?」
伏木蔵が背中をぽんぽんと優しく叩く。
「ねぇ。きり丸、しんべヱ」