桔梗
「第一級の戦場からは離れたとはいえ、私たちの情報網はまだお前よりは上。だから、お前が危ないときは私たちがお前の守りたいものごと守ってやろう。だから。お前は前を向いてあの仲間と共に学園で生きていきなさい」
父と母の言葉が嬉しかった。反対され、戻されると思っていた。けれど、それは違っていて。全て自分を思ってのこと。
「父ちゃん、母ちゃん」
「ん?」
「どうかしたかい?」
「私、私ね。学園で正体を知られた時に思ったんだよ。…あの学園にいたいって。皆と一緒にいたいって思った。それは…間違いじゃないんだね?」
「それでいいんだよ」
「忍は一人かもしれない。けれど、お前はそうじゃなくていいと思うから。あの学園で絆を作っていきなさい。そして、私たちとは違う『忍』を作っていきなさい」
父と母の言葉に乱太郎は頷いた。そして、二人に抱きついた。
「大好きだよ。父ちゃん、母ちゃん」
「私たちもお前のことを愛してるよ。乱太郎…そして華乱」
「うん!」
「でもな? 時々は帰ってきてくれよ? じゃないとやっぱり寂しいからな」
父の言葉に乱太郎はクスクスと笑う。
「戻ってくるよ! 今度は友達いっぱいつれてくるからね。父ちゃんにも母ちゃんにも紹介したい子達いっぱいいるんだ!」
「ああ、楽しみしている」
「待ってるよ」
乱太郎の言葉に二人は笑顔でそう答えた。
この夜、乱太郎は久しぶりに熟睡した。
父と母の温もりとともに。
あれから数日だった。乱太郎はまだ戻ってこなくて。それでも乱太郎を華乱を知る者達には長い時間となった。
「乱太郎、戻ってこないね」
「…そうだね」
喜三太と庄左エ門が教室から外を見る。は組の皆もそしてその担任さえも乱太郎の事を気にかけていた。
「皆、乱太郎のこと気にしてるよね」
「うん。乱太郎がいないとやっぱりは組じゃないよ」
色々なトラブルは乱太郎が家に帰ってからは減った。けれど、それは何か物足りない。先生達でさえ何か物足りなさがあるようだった。
「早く帰ってこないかな?」
「そうだね。帰ってきてほしいね」
庄左エ門と喜三太は学園の外を見るしかなかった。
こちらは伏木蔵。今日は2年生の左近と一緒に保健室の当番だった。
「伏木蔵」
「何ですか? 左近先輩」
「…一年は組の乱太郎はまだ戻らないんだな」