桔梗
「はい。家の事情で帰ってるんです。…早く戻ってきてほしいんですけど」
「そうだな。ここにあいつがいないと…何か落ち着かない」
「左近先輩もですか?」
「…まあな」
いつもいつも乱太郎に何かを言っていた左近や二年生。だが、乱太郎がいないことで何か調子が出ないらしい。
「帰ってくれば…委員会に来るんだよな」
「それは確実にだと思いますが」
「だよな」
「左近先輩」
「なんだよ」
「先輩も乱太郎のこと気にしてたんですね」
「…悪いか?」
「いいえ、乱太郎が喜ぶだろうなぁと」
伏木蔵の言葉に左近は照れた様で伏木蔵の頭を軽く小突いた。
「煩い! ほら、紙の補充にいくぞ!」
「はい」
伏木蔵は思う。
『乱太郎、早く戻っておいで。キミの居場所はちゃんとここにあるから』
きり丸としんべヱは学園の見渡せる丘にいた。そこは三人のお気に入りの場所。
「きり丸」
「なんだよ。しんべヱ」
「…乱太郎、戻ってこないね」
「そうだな」
「もう二週間か…」
「やっぱり長いな」
いつも三人でいた。こんなに離れているのは実は初めてなのだ。入学してからずっと一緒にいた。長い休みのときも時々あっていたりした。だから、まったく会ってないというのは本当に初めてなのだ。
「…こんな長い時間、乱太郎と会ってないのって初めてだね」
しんべヱの言葉にきり丸も頷く。
「そうだよな…」
ずっと入学してからずっと一緒にいた乱太郎。けれどその乱太郎はもうひとつの顔を持っていた。プロ忍としての「華乱」の顔を。けれど、それは乱太郎を失うかもしれないということにつながった。知らなければよかったとは思わない。どちらも乱太郎なのだから。
「ねえ、きり丸」
「ん?」
「乱太郎が…どんな結果を持ってきたとしても笑って迎えてあげようね」
しんべヱが笑う。
「…しんべヱ」
「僕らが泣いてたら、乱太郎がまた困っちゃう。僕だって乱太郎と離れたくないよ。でもどんな結果だとしても乱太郎とは笑っていたい」
しんべヱの言葉にきり丸もそうだなと頷いた。
「オレ達から離れていったとして、乱太郎との絆が切れる訳じゃない。なら、笑ってあいつといられることの方が重要ってことだよな」
「うん。僕らずっと泣いてばっかりで…。そうじゃないんだよね。乱太郎はどこかで繋がっていればいいんだよ」