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トランバンの騎士

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 救護用の天幕へと連れ立って歩く娘二人を見送り――そう『見送った』。ニーナの美貌に見惚れ、ヒックスは佳乃に着いてこの場を離れる機会を失ってしまった――後には捕縛された女盗賊とハイランド王、その重鎮、その他護衛騎士が残るのみ。その最中に取り残され、ヒックスは軽く頭をかく。
「あー、いや……」
「先ほど、彼女の力がどうとか言っていたようだけど……」
 言葉を濁すヒックスに、ウェインは微笑みを浮かべたまま続ける。
 ウェインにはそんなつもりはなかったのだが、ヒックスにはそれが逃げる事のできない脅迫に思えた。
 救いを求めるように視線を泳がせては見たが、佳乃と美女の姿はすでにない。誤解が解けたとはいえ、『盗賊』であるヒルダは再び何処かへと連行された。剣こそ抜いてはいないが、いつでも抜刀するぞとばかりに柄から手を離さない護衛騎士に囲まれ、穏やかに微笑む『ハイランド王』とその重鎮に挟まれて――ヒックスは腹を決めた。
 佳乃の能力など、隠しておく必要はない。
 癒しの力を持つ僧侶と知られれば、道中の賊避けになったのと同様の理由で身の危険も減る。
 ただし、相手は一国の軍隊だ。従軍を求められる危険性もある。
「……正式な聖職者って訳じゃねーですが、癒しの奇跡を使えることは確かです」
 可能な限り言葉を選び、ヒックスはそう答える。
 なんとなく居づらい。
 辞めたとはいえ元騎士として、本来ならば仰ぐべき立場にある高貴な存在に気さくに話しかけられるというのは、なんとも居心地が悪いものだった。
「……それで、貴殿はどこの騎士なんだい?」
 人の良い笑みを浮かべたウェインからの鋭いツッコミに、ヒックスは頬を引きつらせる。
 のほほんと微笑んでいるのは実は偽装で、案外油断ならない性格をしているのか――とも思ったが、のんきなウェインの微笑みを見ていると、ただの天然な気もしてくる。
 どうにも居づらい。居心地が悪い。
 のらりくらりと交わすのは得意だが、それを他人にやられるのは苦手だ。
 どうにか目の前の男を煙に巻いて佳乃を追いかけるなり、なんなりと逃げ出したい。
「ただの傭兵とは思えない身のこなしだけど……」
「それは……」
 身のこなしも何も、ウェインの前で剣を抜くなど特別なことをした覚えはない。
 佳乃を追いかけ、追いつき、捕まえて、場を離れようとしただけのはずだ。
 のんびりとした笑みを浮かべる『ハイランド王』に、ヒックスは内心で白旗をあげた。



 遠のく女神アステアの気配に、佳乃は声には出さず感謝を捧げる。
 『癒しの力を持つ僧侶』などとありがたがられてはいるが、全ては女神の力だ。『佳乃の力』ではない。自分はそれを中継しているに過ぎない、ただの人間だ。人から捧げられる感謝の言葉を、自分に向けられた物と勘違いしてはいけない。女神の愛は無償だが、その上にあぐらをかいては危険だ。佳乃が癒しを自分の力と勘違いすれば、たちまちに女神の愛を失うだろう。
 ほんのりと温かい指先の熱が引き、佳乃は目を開く。
 別に目を閉じなくても『祈り』は捧げられるのだが、視覚を閉じた方が想像しやすい。
 佳乃は目の前に横たわった兵士――ロックの治癒を頼まれたのだが、なし崩し的にハイランド兵の治癒も手伝ってしまっていた――の傷を見下ろし、ホッと息をはく。
「……終わりました」
「ご苦労様です」
 背後を振り返り、佳乃は『奇跡』が必要ではない軽症者の手当てしているニーナに報告する。
 佳乃の報告を受けたニーナは、ちょうど彼女の作業も終わったのか薬箱を片付けながら微笑む。
 薄暗い天幕の中にあっても輝くニーナの美貌に、佳乃はすでに何度目かの感嘆のため息をもらした。
「? どうかしましたか?」
 ぼんやりと自分を見つめる佳乃に、ニーナは小首を傾げる。その動きに合わせ、艶のある黒髪がサラリと流れた。柔和な光を宿すニーナの夜の瞳に、単純な色としては自分と同じはずなのだが、なんだか別の生き物を見ているような気がして佳乃としては居心地が悪い。が、目も離せない。同性であるはずなのに、ニーナの美貌は佳乃を惹きつけて止んではくれなかった。
 可愛らしく首を傾げる美女に、佳乃はほんのりと恥らう。
「いえ、綺麗な人だなぁって、……すみません」
 いかに美人とはいえ、じろじろ見るのは失礼だ。
 それに、ニーナとしても他人にまじまじと見られるのは不快であろう。
 そう思い至り、佳乃は美女から目を逸らして俯く。もう少し見ていたい美貌ではあったが、比べること自体失礼な話ながら、佳乃が女性として落ち込みそうだった。
 深いため息をもらし、自分の前髪を引っ張りなにやら確認を始めた佳乃に、ニーナは微笑みを苦笑に変える。
 何を落ち込んでいるのかは理解できなかったが、ハイランド軍の陣営に飛び込んできた佳乃という娘は考えている事が如実に顔へと現れるようだった。不審人物であることに変わりはないが、女神の奇跡が扱え、素直すぎる表情を見せる佳乃に、ニーナの中の警戒心は薄らぐ。
「……それにしても、随分強い力をお持ちのようですね」
「え?」
 いったい何を言われているのか。そう前髪を弄るのを止めて首を傾げた佳乃に、ニーナもつられて首を傾げる。
「正直、もうダメなんじゃないかって重傷者まで、あなたが力を使うと見る間に傷口が塞がるんですもの」
 微笑ながらそう続けたニーナに、佳乃は照れ――ニーナのような美人に微笑まれれば、例え同性であっても一瞬照れるだろう――笑い、すぐに表情を引き締める。
「全ては女神様のお力です」
 ニーナが誉めてくれたのは、自分の力ではない。気まぐれに佳乃の願いを聞き届け、癒しの力を貸してくれた女神様だ。
 一瞬照れた後、すぐに『女神のおかげだ』と答えた佳乃に、ニーナは笑みを深める。
 佳乃の力――厳密に言えば、彼女の言うように『女神の力』なのだが――が一般の僧侶――例えばニーナ自身――よりも強い理由が解った。
 佳乃の揺るぎない女神への信頼が、絆の架け橋となってより多くの女神の慈愛を受けられるのだろう。
 癒しの奇跡を預かる僧侶など、近年では稀な人材だ。普通は何年も僧侶としての修行をつみ、女神の存在を確信できるようになって初めて奇跡の力を得る。まず奇跡を得るだけの域に達するまでには相当の年月が必要となるはずだったが、佳乃はまだ歳若い。佳乃の歳で自分以上の奇跡の使い手となると――その信仰心の強さは計り知れない。
 自分に見つめられ、照れたり恥らったりとコロコロと表情を変える佳乃に、ニーナは声に出して笑う。
 歳はそう変わらないはずだ。
 旅姿をした佳乃の事情は解らないが、もしも彼女が従軍してくれれば、きっと良い関係が築けるだろう。
「さあ、これで怪我人達も一安心です。まずはウェイン様にご報告に行きましょう」
 ひとしきり笑った後、ニーナは佳乃の手を取る。
 ニーナの優しい力で手を引かれた佳乃は、驚いて瞬いた。
「え? わたしも行っていいんですか?」
「はい」
 さっきは無理矢理陣営へと飛び込んだのだが。
 まさか、こうも簡単に改めて『ハイランド王』に会う機会がくるとは思わなかった。
 佳乃は手を引くニーナに誘われ、素直に救護用の天幕を出た。


作品名:トランバンの騎士 作家名:なしえ