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トランバンの騎士

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 飢えた農民と職を失った市民は、ある者はトランバンから逃げ出し、またある者は領主へと反旗を翻す。このままの状態が続けば、いずれトランバン領内からは領民がいなくなってしまうだろう。領民のいなくなった領地には、さすがの領主も生きてはいけない。税金を搾取する相手そのものがいないのだから。そして、領主のいなくなった領地など、他国からの侵略を待つだけの『土地』だ。
 切々とトランバンの現状を語る佳乃が、一瞬だけ『護衛隊』という単語に緊張をみせた。
 それに気がついたが、ウェインは気づかない振りをして佳乃の口から聞こえる言葉に耳を澄ませる。
 時々揺れる瞳に、佳乃にまだ迷いがあることが判った。それは『自分が何を言おうとしているのか』を理解している証拠だ。
「……個々に力だけでは、ダメなんです」
 わずかに躊躇い佳乃は口を閉ざすが、迷いながらも口を開く。
「どうか、お力をお貸し下さい。『ハイランド王』」
 『ウェイン』ではなく、『ハイランドの王』に佳乃は願う。
「……それは、『ハイランドに』ボルガノを討って欲しい、という事かい?」
「はい」
 緋色の瞳に射竦められながらも、佳乃はそれを真っ向から受ける。
 今目を逸らしてはいけない。
 それが戦う力を持たない佳乃にできる、唯一示すことのできる『誠意』だった。
「軍を率いてトランバンを攻めるとなると、トランバンの市民にも、ハイランドの兵にも『犠牲』が出る」
「はい」
 そして、それを『引き起こそう』としているのは佳乃自身だ。たとえ遅かれ早かれ『そうなる筋書き』であったとしても、今それを引き起こそうとしているのは自分だと佳乃は受け入れる。
 おそらくは、佳乃が『それ』を誰かに押し付けようとしたら、『ハイランド王』は動いてはくれない。
「そして、トランバンは自治領だ。その領主を玉座から引き摺り下ろすために他国の力を借りる。……その意味も、君は解って言っているのかい?」
「……その後のことは、ウェイン様に全てお任せいたします」
 一国の力を借りての領主討伐。
 それはつまり、理由はどうあれ対外的には『ハイランド王国によるトランバン侵略』に他ならない。
 佳乃はウェインに、侵略者の汚名を着せ、兵と市民の尊い命を犠牲にしろと『願って』いるのだ。その報酬として『ハイランド王』に与えられる物は、領地としてのトランバン『しか』ない。
「トランバンがハイランド王国に吸収されようが、属国として扱われようが……全てウェイン様に……」
「……それで、いいんだな? お嬢ちゃん」
 少しだけ遠慮がちに聞こえるヒックスの声に、佳乃は振り返らないまま小さく頷いて答える。
 ヒックスの確認事項は、ウェインの物とは少し意味が違う。
 ウェインへの領主を討てという依頼は、つまりその護衛を勤めるイグラシオを討てと言っているに等しい。
「市民の……子ども達の生活を守れるのなら、どの国が支配者であっても構いません」
「あたしも同じ意見だよ」
 不意に聞こえた『この場にはいないはずの声』に、佳乃は瞬く。それから声のした方向へと顔を向けると、天幕の入り口に『捕縛されているはず』のヒルダが立っていた。
「おまえはっ!」
 腰の剣に手を添え、今にも鞘から抜き出さんと構えるソマリオンとリンクを、ウェインが片手を挙げて制する。
 見事に王に御された番犬2匹に、ヒルダは堂々と天幕の中央へと進み出た。
「あたしら一般市民にしてみりゃ、上の人間がどこの国であったって関係ない。毎日を汗水たらして働いて、日々の糧を得ながら生きるだけさ」
「……為政者選びは重要な課題だ。万が一、僕がボルガノのような圧政を布いたら、どうするつもりだい?」
 静かなウェインの言葉に、ヒルダはすっと緋色の目を細める。
 勝手な話だが、相手を試すのは好きだが、相手に試されるのは好きではない。
 ロック以外の仲間達の治癒までしてくれた佳乃の顔を立てて大人しくしているつもりであったが、相手が自分を試すのならば、こちらも――とヒルダが隠し持つナイフに手を伸ばすと、その隣で佳乃がきっぱりと言い捨てた。
「それは、ありません」
 迷いなく綺麗にそう答えた佳乃に、ウェインとヒルダは揃って瞬く。
 二人どころか、その場全員の視線を集めながらも、佳乃は臆することなく続けた。
「……本当は、ハイランド王の人柄を確認した後で、このお話をするつもりでした」
 本来の『本当』は、『ハイランド付近まで行って、王が誰か、いつ頃トランバンへ着そうか』を『確認』したかっただけなのだが。
 予想外に首尾良くウェインで出会えてしまい、この機会を逃してなる物かとなし崩し的に全てを話してしまっていた。
「ウェイン様は、『戦いをやめろ』という旅人の言葉に耳を傾けてくださいました。そんな方が、ボルガノ以上の圧政を布くはずがありません」
 本当は、『ゲームをやったから』ウェインの人となりを知っているのだが。
 そんな事を、今この場でバラす必要はない。



 先程まではまだ迷いを見せていた娘に、自分の『人柄』についてはきっぱりと太鼓判を押されてしまった。
 ウェインにはそれがほんの少し照れくさい。が、『民』に寄せられた全幅の信頼には、つい応えたくなってしまう。
 それでなくともトランバンの実情を聞いてしまえば――『侵略戦争』のための行軍ではなかったが、放っておくこともできない。
 まだ見ぬトランバンの民とハイランドの兵を想い、ウェインは眉をひそめる。
 ハイランドへトランバンを『差し出す』事について、佳乃は十分に理解していた。が、一つだけ佳乃の話には引っかかる箇所がある。
「……護衛隊というのは?」
 先ほど僅かに佳乃が緊張を見せた単語を挙げて、ウェインは佳乃に問う。
 聞かれたくない話題であったのか、佳乃は一度俯くが、すぐにウェインの問いに答えようと口を開き、その言葉をヒルダが遮った。
「閃光騎士団っていう、ボルガノの犬どもさ。やつらがいるせいで、市民がどんなに力を合わせようとボルガノまで届きやしない」
 代わりに答えたヒルダに、佳乃はそっと目を伏せる。
 居た堪れなさそうに俯く佳乃に、ウェインは何かあると悟った。
「ボルガノを討つには、その閃光騎士団を倒さなければならないようだけど、……君はそれでいいのかい?」
「……全て、ウェイン様に……」
 お任せします、と続けようとした佳乃の言葉を、ヒックスが遮った。
「お嬢ちゃん!?」
 ヒックスとしては、佳乃はトランバンの命運をハイランドに任せようとも、イグラシオの命乞いだけはするものと思っていたのだが。佳乃はあっさりと任せた。ハイランドという国の若き王に、イグラシオの命までも。
「ちょっと待て、お嬢ちゃん! お嬢ちゃんはそれでいいのかっ!? いくらなんでも、団長の命までハイランドに任せんのか!?」
「……団長?」
 それまでは大人しく事態を見守っていたヒックスの言葉に、ウェインは眉をひそめる。
 ようやく『護衛隊』という単語に佳乃が緊張を見せた理由が解った気がした。
 つまりは、佳乃という女性と『団長』と呼ばれる人物には、なんらかの関わりがあるのだろう、と。
「閃光騎士団を預かる、イグラシオという男です」
作品名:トランバンの騎士 作家名:なしえ