巫女さんなシズちゃんと帝人くんの話
いや、それとも新婚夫婦のような甘酸っぱい緊張感の方かな!?」
まるで中高生の女子のようなテンションで喜びを表現する青年に若干ひいてしまう。
とりあえず青年からライダースーツの人への矢印はよくわかった。極太マジックで書いたよりも太いベクトルなのが嫌になるほどよくわかった。
これだから軽口を叩くとろくなことがないのだ、自分の幼馴染みたいに。
「すみません余計なことを言ったみたいです」
「いやいや、気にしないで!むしろもっと言っていいんだよ!」
「あの、すみません」
妙な方向に盛り上がる空気の中、控えめな声が上がった。
「園原さん?」
「あの、竜ヶ峰くんの怪我の具合はどうでしょうか」
遠慮しがちに問いかける杏里の姿に新羅は居住まいを正して向かい合った。
「…結論から言うとね、もう傷はほとんど塞がっているよ。
確かに傷自体は大きくて深いけど、何故かほぼ閉じかかっている。
どういう経緯でついた傷なのかとても興味深いんだけど、話してくれるかな?」
一斉に3対の視線を向けられた少年はこくりと咽喉を鳴らしてから
記憶を手繰りよせるように説明を始めた。
「その、学校から帰宅する途中で妙な風が吹いたんです。僕は気にせずに歩いていたんですが、
周囲に人気がなくなってきてから突風が何回も吹いて、そのたびに身体のあちこちが切られて、
…一度だけ、風の中に動物みたいな姿が視えました。それで慌てて家とは反対の方へ逃げたんです」
「あー、それカマイタチじゃないかな。こう、イタチの両手が鎌になってる妖怪でね、
つむじ風の一種だと言われてる。それに行き遭ってしまうとすっぱりと切られちゃうんだ。
ただ3匹で行動していて最後の奴が薬を塗ってくれるからそれほど酷い怪我にはならないらしいよ。
災難だったけどこういうものは突発的な災害だから気にしない方がいいと思うな」
「あの、」
「ん?何だい?ああ、お金はいらないよ、簡単な手当てだしセルティの頼みだし」
「ありがとうございます…その、違うんです、これが初めてじゃないんです」
「…え?」
きょとんとした顔で固まる新羅を前に続けていいものなのか迷ったが、
真剣な眼差しで杏里に促され、訥々と言葉を探しながら口を開いた。
「ええと、5月の末くらいから学校の帰りによく、人じゃないようなものが帰り道にいるようになりました。
最初は気付かなかったんですが向こうからちょっかいをかけてくるようになって。
それから逃げるたびに次から次へと違うものが追いかけてくるようになり、今日とうとう逃げ切れなかったので
こうなりました」
ずいっと眼前にPDAが付きつけられる。
『そういうことはもっと早くに誰かに相談するんだ!』
「え、と、…そうですが、僕は最初人外に接してるってわかっていなくて。
気が付いたら追いかけられていたというか……」
「うーん、杏里ちゃん、君のお友達はかなり鈍い子みたいだねえ」
「そんなことないと思います」
作品名:巫女さんなシズちゃんと帝人くんの話 作家名:おりすけ