巫女さんなシズちゃんと帝人くんの話
家に戻るとそこにはスーツを着た青年がいた。
見るからに仕立ての良さそうな服だ。
濃いグレーに白のストライプが入ったシャツ、
やや赤みがかった黒のベストに揃いのパンツ。
艶やかな黒髪が西日に染まって紅く見える。
ぽかんと固まっている少年に向かって青年はにこりと微笑んだ。
「お待ち申しあげておりましたご主人様。さあ、私と帰りましょう」
真っ白な手袋が芝居がかった調子で差し出される。
畳の上の執事。
もうどこから突っ込めばいいのかわからないがとにかく
脊髄反射で叫んだ。
「こ、ここが僕の家ですぅうううぅうう!!!」
どこだ。どこにカメラがある。
素人をいきなりドラマか映画の撮影に巻き込まないでほしい。
そういえば池袋には執事喫茶があった。
なんだろう、そこで不採用にでもなった腹いせにこんな奇行をしているんだろうか。
「ひどいな、ドッキリじゃないよ」
くすくすと笑いながら彼は肩をすくめた。
「新羅から話は聞いてない?君は昨日を以って一級保護対象になったんだ。
俺はいわば…雇われボディーガードってとこかな?あのチビの代わりだよ☆」
さあ出た出た、と家から追い出されると
いつの間にかアパートの下にタクシーが停まっていた。
押し込まれながらも最後の抵抗とばかりに尋ねる。
「ど、どこにいくんですか?」
「大丈夫、池袋からは出ないから。新しい俺と君の家に行くんだよ」
「あー!臨也遅いよ!セルティも心配して迎えに行こうとしちゃってたよ!」
「す、すみません」
『帝人が謝ることじゃない』
「あ、あの…静雄くん…は大丈夫ですか?」
『ああ、元気だ』
「今日はね帝人くん、そのことでお願いがあるんだ」
まず何から話そうか。やはり彼のことからだね。
平和島静雄は普通の人間だ。
ところが彼は生まれついての尋常ならざる「力」があった。
それは異常なまでの怪力。まあ、正確には気が短くてすぐキレて
怒りによって人間が本来自己防衛のために備えている筋肉の歯止めが壊れやすい子だった。
「彼はね、巫女だったんだ」
「みこ?」
「そう、神社にいる神主さんとか巫女さんの、巫女。
女の子じゃないから正しくは神子、って言った方がいいのかなあ。
神社の鳥居が何であるか知ってる?あれはね、こちらとあちらを隔てるためなんだ。
ちなみにあっち側が聖域であることは少ないよ。
だって神社って言うのは良くないものを封じて閉じ込めておく場所だからね」
つらつらと暴論を並べ立てる白衣の青年に意識が飛びそうになる。
作品名:巫女さんなシズちゃんと帝人くんの話 作家名:おりすけ