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いつかに失った季節の話

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ある冬のこと

 雲雀さんが、ぼんやりと樹を眺めている。
 葉のすっかり落ちてしまった木には雪すらなくて、寒々しくて孤独に見える。
 そんな樹を見上げる雲雀さんの心も、もしかしたら“気”もちも全部なくしてしまって、北風に凍えているのかも知れない。
 雲雀さんの周りには何時だってたくさんの人が居て、もう、雲雀さんが独りになりたくても独りぼっちになれる事なんて決してないのに。
 それでも彼の心が孤独だったらさみしい。

 俺は何も言わず何も言えずに唯、立ち尽くすその背に抱きついて、分厚いコートで覆われて尚、細身の身体に腕を回した。
「雲雀さん、心まで凍らせないでください」
 俺の冷たい身体が、雲雀さんの身体をますます冷やしてしまったらと心配したけれど、分厚いコートに阻まれて、俺の温度が伝わることはない。


「体温は分けられなくても、せめて心くらいは温めてあげられたらいいのに」


 綱吉の呟きは誰の耳に届く事もなく、空気を白く濁らせもせずに宙に消えていった。