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ネイビーブルー
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【聖☆おにいさん】駈込み訴え【パロディ】

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い気持ちになったのを覚えています。その時、一羽の美しい鳩が私の元へ飛んできました。何かと思うと、鳩は私に向かって、こう囁きました。「あれを、売りなさい」と。あれというのが何か分からず、また、私には、売るようなものなどございませんでした。故郷には小さな土地と、美しい桃の畑が残っておりましたが、私がその時持っていたものといえば、黄色い着物と私自身の体くらいなもので、他には何もございませんでした。ですからそのどちらかかと思いまして、はあ、いくらでお売りしましょうかとお聞きすると、鳩は首を動かしてあの方を指し示し、もう一度、「あれを売りなさい」とおっしゃいました。売るものは、あの方だったのです。あの方は私のものではないのに、鳩は、私にあの方の売買の権利を持たせたのです。私には、そのとき、鳩の正体が分かっておりました。あの方の、お父上です。私は驚愕して、なぜ、と問いますと、お父はただ一言、「獅子は、子どもを谷の上から突き落とす」とだけおっしゃいました。そして、去って行ってしまいました。私は、何が何だか分からない気持ちで、胸騒ぎが止みませんでした。その時には、あの方を、まさか、売るなんて、そんなこと、決して、考えていませんでした。ええ、考えていませんでしたとも。けれども。けれどもその後、川から上がってきたあの方の両脇を、ペトロとアンドレが抱えているのを見て、何かが私の中に入り込んだのを感じました。何か、見えない邪悪なものが、そうです、ルシファーにでも見込まれたのかも知れませぬ。お父上もああおっしゃっている。あの人は、腰抜け共に支えられているような腰抜けだ。それに、今ではあの人のおっしゃることのせいで、色々な役人たちから睨まれている。あの人はそれでも、教えを守って生きなさいとおっしゃるけど、その教えとやらのぬしも、あの方を、売れと人に命じた。なんて可哀想な人なんだろう。あの人は、生きていても、仕方がないのかも知れない。私が売っても良いのかも知れない。そう思いました。けれど、私はやはり、あの人を売るなんて、そんなことは出来ないと思いました。あの人が、誰か、一瞬でも誰か違う人のものになるなど、我慢がなりませんでした。お父上に、できないと返事をすることは出来ませんでしたが、それでも、できないと、心の中で強く叫びました。それは結局、無駄だったのですけれども。その日はそれで終わったのですが、それから数日たった夜、悪魔が私の元を訪れました。悪魔は床についていた私を起こすと、森の中に誘いました。そして人がいないところまで行ってにわかに私を抱きすくめると、「可哀想に」と囁きました。私は、何が可哀想なものかと奴の手をふりほどこうとしましたが、できませんでした。それは、奴の力が強かったからではありません。奴の言ったことに、覚えがあったからです。ええ、確かに私は可哀想な奴だ。愚かで、どうしようもないやつだ。だけど、なぜそれをこいつに言われなくてはならないんだ。私を抱いたのは、肝心なことを言う前に逃げられないようにするためだったのでしょう。愚鈍な私に、そんな心配は無用なのに。悪魔は私の耳元で、「約束を忘れるな」と申しました。そうして、一瞬にして消え失せました。私は茫然としたまま、森を彷徨いました。戻る気にはなれませんでした。けれども、そうして何時間かふらふらして戻りましたところ、寝ていたはずのあの方が、起きて、私を待っておられました。どうして起きていたのです、と尋ねると、あの方は、私が心配だったからだとおっしゃいました。私は神を呪いました。こんなに優しい、美しい方を、売りなさいとおっしゃる神を呪いました。しかしそこで、気づいてしまったのです。神を呪う私は、あの方にふさわしくない。神の教えを伝えるあの方をお慕い申し上げているのに、私は神を呪っているのです。ああ、なんてことだ。違いない。私は、もうその時既に裏切り者となったのです。そうです。きっかけは、マリアのことではない。お父上でも、悪魔でもない。私の、私のこの矛盾する心が、あの方を裏切る結果となったのです。私は、なんだか笑ってしまいたかった。神は、ちゃあんとそれを分かった上で、私に役目を託したのだ。よくわかっている。ちゃんと、ちゃんと私のことをご存知だ。それに、神自らが来た上に、悪魔までよこして私に催促をするとは、お父上は、ご決心を変えるつもりはないのでしょう。とすると、私が無理なら、他の誰かにその役目が任される可能性がある。もし、ペトロがその役目を担ったらどうでしょう。ペトロに裏切られて、優しいあの方は、きっと悲しまれるに違いない。ペトロなんかに、あの方を売らせるわけには、いかない。他の誰でも同様だ。だったら、私があの方を売ろう。私が、あの人を殺してあげる。他の奴に殺させたくない。どうせ成されることならば、私がそれを成そう。愛しているから、あの人を、この手で殺そう。私は目を閉じてそう決心しました。あの方は、様子のおかしい私を優しく気遣ってくださいましたが、もう、そんな振る舞いは、私の心を変えることは出来なかった。私は買い物のために町へ行った際に、密かに役人のいるところまでの道順を覚えておきました。また、あの人が、銀三十売られていることも耳にしました。銀三十。なんて安いんでしょう。私があの人を買ったならば、もっと出す。それに、私があの人を買ったならば、十字架なんかにしないのに。はは、そうです。あの人を金で換算していることすら、私の、あがないがたい罪なんですよ。さすがの私も、ある日の晩餐の前に、あの方が弟子たちの足を一人ずつ洗ってくださったときには、固い決心も鈍りました。あの方を、売りたくないと、心底思いました。こんなに優しい方を、なぜ売らねばならぬのか。しかし、また神を呪おうとした私の心に気づき、私はもう、抗いがたい運命に巻き込まれてしまっているのだと気づきました。私は、あの方を、売るんです。そういう、決まりなんです。だから、晩餐の席であの方が、「この中に、私を裏切る者がいる」と言ったときにも、私はただ、暗い顔をして、俯いておりました。ペトロが、悪い冗談は止めてくださいと叫び、アンドレが、それは私のことですか、とわめき、他の者たちも、嘆いたり、おののいたり、食事の席は、阿鼻叫喚の騒ぎとなりました。しかしそれは、あの人が、浸したパンを、私の口元に押し当てることで収まりました。全員が、私のほうを見ておりました。弟子たちは、今まで見たこともないような真剣な、それでいて、憎悪に満ちた目で私を見ておりました。あの方は、悲しげな目で、私を見ておりました。私は、あの方の濡れた指先から、浸したパンを、ひとかけら、いただきました。まるで犬のように舌を伸ばし、あの方の指についた滓まで舐めとりました。願うなら、もっと、他の方法で、あの方の手に触れたかった。あの方はおっしゃいました。「行け。行って、汝の成すべき事をせよ」と。あの方が、何処まで知っていたかは分かりません。成すべき事の内容は、お父上が命じられたことだと、知っていたかは分かりません。けれど、お父上の考えを知っていたとしても知らなかったとしても、私が裏切り者であることには代わりありません。私は神の意志をなし、そして愛しい主を裏切るために、走