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きみのなかに

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おや、と言って、日本は部屋に入ってきた。オレの傍に膝をつくと、額を撫でる。髪の毛を撫でる手が気持ちいい。
「具合が悪いとかじゃないんですね」
「そんなんじゃないよ。…日本の春は、暖かくて眠くなる」
「春眠暁を覚えず、とは中国さんの言葉ですけど。アジアの春は暖かくて、眠くなるものなんですよ」
笑って言うと、日本は立ち上がろうとした。毛布を持ってきますから。その手を取って引っ張ると、小さく悲鳴を上げて、バランスを崩した小さな身体が倒れ込んでくる。
「何を」
「だったら、日本も眠いよね。…一緒に昼寝をしようよ」
文句を遮って言うと、オレの胸の上できょとんとしている顔が見えた。
「昼寝、ですか」
「そうだよ」
眠くない?と聞くと、まあ少しは、という曖昧な返事が返った。
「ただ、今から物置の中身を虫干ししようと思ってたんですよね」
どうしよう、と日本は首を傾げて小さく呟いた。物置と聞いて、オレは身体を起こした。一緒に日本も身体を起こす。
「物置ってあの?庭の隅にある」
「ええ。天気もよいのでやっておこうかと」
庭の隅の、小さな小屋みたいな建物。気になって、何度か開けようとしたけれど、南京錠がかかっていて開かない。日本に聞いたら、色んなものを仕舞ってあるので、としか答えないので、中身にとても興味があったのだ。
「手伝うよ!」
楽しそうなのでそう言うと、え、と日本は止まった。
「面白くありませんよ、きっと」
「そんなことないよ!古いのもあるんだろう?」
多分にそれは、オレの好奇心を満たしてくれるはず。オレの言葉に日本はしばらく考え込み、それから溜息を吐いた。
「じゃあ、手伝っていただきましょうか」
「そうこなくっちゃ!」
万歳をしたオレを苦笑して見ると、ただし、と日本は神妙な顔で付け加えた。
「手荒に扱ってはいけませんよ?本当に古いものが多いので…」
「OKOK!わかってるよ!」
この時点ではオレは、本当に『古い』をよくわかってなかった。
古代遺跡の発掘ほど古いわけじゃない。けれど、うちの倉庫にあるものよりは、ずっと古いものが、そこには仕舞われていた。
「春と秋と、天気のいい日に開けてるんですよ」
慣れた仕草でたくさんの鍵の中から一つを取り出して、日本はその扉を開けた。湿ったような、埃臭い倉庫独特の匂いがする。
作品名:きみのなかに 作家名:浅平夏晴