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きみのなかに

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思っていたより綺麗に整理されている。雑然と並んでいる箱に、巻物の類。
割烹着という日本のエプロンを着た日本は、さて、と腕まくりをして物置の奥へと入っていった。
「この箱は何だい?」
物珍しくて、ついきょろきょろと見渡してしまう。ひときわ大きい箱に触れて、オレは問うた。
「ええと、それは唐の時代の中国さんにいただいた壺ですね」
多分そういうことが書いてあるのだろう。古ぼけた紙を一瞥して日本が言った。
「これは?」
大量の巻物の一つ。今はくすんでいるけど、当時は華やかな緑の表紙だったのだろう。朱色の紐で括られている。
「ご挨拶に送った手紙のお返事です。当時の中国の上司の方がくださったんですよ」
何だか日本が嬉しそうなのが気に入らない。手に持っていた巻物を無造作に戻して、オレは何気なく聞いてみた。
「ふーん…それってどれくらい昔?」
「そうですねぇ千三百…千二百年くらいですかね」
「!!?」
千年以上昔!正直、想像も出来ない。そんな時代にはまだオレも自我がなくて、何にも覚えてないんだ。
「中国さんはもう四千歳を数えられているので…それだけ昔でも、これだけ立派な文化をお持ちだったんですよ」
よいしょ、と巻物の入った箱を持って、日本が言った。
「私は学ぶだけで精一杯で。遣唐使を廃止してから、ようやくいただいた文化を私なりに発展させてきたんですが」
外へと運んで、日本はそれを置いた。紐を解いて、巻物を広げる。すでに墨は薄く、書いてあるものを視認するのも難しい。
あらかじめ広げられていた畳?のようなものの上に、日本はそれを置いた。後で聞いたらそれは、ゴザという畳の表面を剥いだものらしい。
「公的なものはすべて、博物館などに展示してありますから。これは私の、思い出ですね」
開いて置いて、それを見下ろすと、日本がぽつりと呟いた。ちり、と何か、胸の奥が痛くなる。
「他の国のもあるのかい?」
刀にからくりにと仕舞われている物置を一瞥して、オレが聞くと、まあ、と日本は頷いた。
「それはありますよ。引き籠もっていた頃にもオランダさんとの取引はありましたし…」
「……アレ、燃やさないの?」
アレ、と物置を指さすと、ハイ!?と日本は素っ頓狂な返事を返した。
「燃やしませんよ!何で燃やすんですか!!」
怒り気味に日本が言う。日本はアレが大切なんだ。そう思うと、思わずしょんぼりとしてしまった。
作品名:きみのなかに 作家名:浅平夏晴