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(インテ新刊サンプル)翼あるもの

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 ダン!と大きく扉が叩かれた。
「…ここを開けて」
「はい?」
「ここを開けてと言っているの!」
 それまで無言だった少女の突然の叫びに、男がたじろぐ。
「ひいさまをこんなところに閉じこめて、あんな鎖で繋いで、あんなに傷つけて…酷すぎる」
 ダン、ダンと扉を叩く凪の瞳から、ぽろぽろと涙がこぼれ落ちる。
「この呪符を捨てて。この扉を開けて。あの鎖を解いて」
「きゅ、急に何を…!?」
「ひいさまを…ひいさまを、はなして」
 呪符に触れた凪の手が火傷を負ったように赤くなり、皮膚が擦りむけて血が滲んでいく。
 特別製の呪符に反応するのは、天羽族の血を受け継ぐ者だけ。
「おまえも、まさか」
 天羽族なのか、という男の疑問を無視するように、凪の両手を大きな手が掴んで止める。
「…おやめなさい、凪。君の綺麗な手がこれ以上傷つくのは見ていられない」
 素早く癒しの呪を唱えながら、骸が諭すように言う。
「でも、骸様!」
「大丈夫ですよ。これからこの呪符もあの鎖も、すべて壊しますから」
 その瞬間、ぱあん!と大きな音がした。




 紫の炎を纏って、燃やされた呪符がぱらぱらと床に落ちる。
「なぜだ、呪符結界は完璧の筈」
「同等以上の力で作られた結界をぶつければ、弱い方は破損する。符術師の端くれならそのくらいは知ってるでしょ」
「…結界の相殺か!」
 けれどそれは符術の中でも高等な技で、扱える者などそう多くはいない。
 しかも媒介である符すら持たずにそれを行える者は、殆どいないと言ってもいい。
「……やっぱり苦手だな、この符」
 びりびりと痺れる右の掌を見下ろして、恭弥が小さく吐き捨てる。
 呪符結界を破るために、彼は右手にごく小さな、けれど強力な結界を作ってぶつけたのだ。
「───さあ、扉を開けるパスを教えて貰おうかな。痛い目に遭いたくないならね」
「し、知らない…私はただの案内役で…」
「この扉、壊した方が早いかな。でもあの子に危害が加わると嫌だし」
「では僕が、無理にでも言いたくなるように仕向けて差し上げましょうかね?」
 男ののど元に、鋭い刃が押しつけられる。
 背後から男を羽交い締めにした骸が、どこからとも無く取り出した三叉鎗を突きつけたのだ。
「このまま死ぬか、大人しく扉を開くか。…さあ、賢明なあなたなら、どちらが利口か解るでしょう?」
 クフフ、と低く笑った骸に更に強く刃を突きつけられ、男はパスワードを口にする。
「凪、パスを」
「はい、恭弥さま」
 頷いた凪が、扉の横に据え付けられた小さなキーボードに手早くパスワードを入力する。
 パシュン、と空気の抜けるような音がして、扉が開かれた。







 扉の開かれる音がして、少女はあれ、と思った。
 自分が生かさず殺さずの状態で監禁されているのは知っていたから、数日に一度血や羽を採取すれば、あとは食事や風呂以外の時にこの扉が開かれることはない。
 食事が運ばれてくるのは決まって夕方だったし、風呂だって昨日入らされたばかりで、採血だって今朝一番にされて、新しい包帯を巻き直された。
 だからここの扉が開かれる理由が思いつかないのだけれど。
「…まだ、羽か血が欲しいの?」
 空に向かって伸ばしていた手を腹の上に置けば、長い鎖が床に擦れてじゃらりと嫌な音がする。
「俺だって生きてるんだから、そんなに一気に持って行かれたら、死んじゃうかも知れないよ?」
 まあ、死んでも良いなら話は別だけど。
 くすくすくす、と乾いた笑みと共に扉の方に視線を向けると、教団の服を纏った男と、白以外の衣服を纏った人間が三人立っていた。
 教団の男は何度も見たことがあったが、他の三人に見覚えはない。
 少女が一人と、青年が二人。
「…だれ?」
 そっと顔を向けて、問いかける。
「───ひいさま」
 少女の唇から零れた声に、ぴくりと肩が跳ねる。
「ひいさま、わたしです。凪です」
「…なぎ?」
 駆け寄ってきた少女に、彼女は瞳を見開く。
 悠久の時間を閉じこめたような、澄んだ琥珀色の双眸。
 凪の大きな瞳を見返して、彼女は力の入らない体を叱咤して半身を起こした。
「本当に、凪なの…?その、右目は」
「逃げるときに、潰されちゃった」
 ふわり、と小さく笑った凪は彼女の前に跪き、小さく呪を唱える。
 役目を終えた枷と鎖がインディゴブルーの炎を纏って、さらさらと少女の手足からこぼれ落ちて消えた。
「良かった、ようやくみつけた」
 彼女の両手を恭しく取り上げ、凪が自分の額にそっと押し当てる。
「お久しぶりです、我が姫君」
「……もしかして、むくろ?」
 未だ男を拘束したままの骸が微笑めば、ぱちりと大きな瞳が瞬く。
 そして。
「───探していたよ、ずっと」
 甘い低い声に、ぴくんと彼女の肩が跳ねた。
「きょうや、にぃさま…?」
 そっと離れた凪の代わりに彼女の前に跪き、同様に両手を自分の額に押し当てて。
「そうだよ、綱吉」
 恭弥は音もなく、自らの翼を広げた。



「僕の、ファム・ファタール」