タユタ
雨は冷たく二人を濡らした。人の気配は敵も味方も何も感じなかった。感じられなかった、が正しかった。
脈拍が大きく聞こえた。心臓とつながっているのだと、はっきりと感じた。抱えた友人の流す血液で、自身の真新しい制服はどんどんと汚れていった。
生暖かい、呼吸だけが重なった。彼の上腕の傷口はだらだらと鮮血を流し続け、とにかく患部を心臓より上にし、それから、と懸命にどうするかの記憶を。辿るしかなかったのだ。降りしきる突然の雨粒が視界さえも濁らせる。喉は悲鳴と呼びかけで枯れてひりひりと痛んだ。
友人は、留は温かかった。温かすぎた。それが危険なのだと察知したのは自身の本能で。やっとのことで懐から取り出した、最近委員会から支給されたばかりの綺麗な包帯をぎゅう、と持てる力で巻いた。
強くすればいいのか、どうすればいいのか、そこまで言われていない、いや、覚えていなくて。後悔の念と、責任と、焦燥と、彼の体温と、滲む視界と、後はもう、彼の手を必死に握って、肩に背負って
震えていたのは
僕のほうで
おもいのこのむかうさきに
きみがまだ
「傷‥」
喉を開き、声帯を震わせてから自分の言葉が虚ろだということに気づいてはっとした。言葉が向かった先のはずの彼は訝しげに差し出してくれた薬箱を下げたまま眉間に皺を寄せている。傷って、何の。という問いかけに伊作は何でもないを繰り返し、顔を赤くして背けた。
「おま、だれかと間違ったんだろ、わー、ひでーの」
「違‥!わたしが間違えるわけ無いでしょうが!!そんな」
「ぢゃ、なによ?」
カタリ。食満の下げていた古めかしい、薬を入れるための箱が床に置かれた音がした。
「昔の、肩傷‥」
「ん?」
「きみが、わたしを庇って受けた、はじめての野外のときの肩傷!」
「‥あれは」