ワールドイズアキラズ
身長は結局さほど伸びなかったがあの頃よりは少しは成長した体。追手に追われながら負ってしまったいくつもの傷跡。見ていて、さほど心地のいいものではないだろう。ただ、シキと同じあたりに同じような傷跡ができたのは少しだけ誇らしいようなくすぐったい気分だった。それを見咎めるような、射るような紅い視線。
久しく感じていなかった臍のあたりがジン、としびれるような感覚を感じた。結局あのピアスは、今も付けている。
しかし、服といったところで……と思ったがすぐに見つけた。これも大きすぎて、それだとすぐに気付かなかったが半開きになった扉にたくさんの服がかかっている。
ベッドからひょい、と降りてそのクローゼットに向かい……そしてまた世界が凍りつくような感覚を味わった。
「……これはなんだ」
頭が、拒絶反応を起こしている。
「お前の服だ」
クローゼットに詰められている服は、さほど袖を通された形跡がない。ならば『アキラ』は何を着ていたというのだろう。しかし、この服を着たくない気持ちはよくわかる。
セーラー服、メイド服、ナース服、巫女服、どこの国のものか分からないなぜかミニスカートの軍服、変わった形の紺色の水着なんてのもある。明らかに常軌を逸している。
「半分はお前が集めたものだろう」
そんな事をした覚えは断じてない。
かろうじて、普段身につけている者に一番近い服――つまり、シキと同じような服装を選んで着ることにした。
袖を通しながら、何となくこの違和感の招待に気付き始めた。
つまり、この目の前にいる『シキ』の認識しているアキラはアキラであってアキラではない。つまり自分ではない。同様に、自分の認識しているシキもまた――この目の前にいるシキとは、別人なのではないだろうか。
そのことに、アキラよりも早くシキのほうが気付いたのだろう。齟齬を埋める質問をしてきた。
「……ここがどこだかわかるか?」
「知らない。昨日は日興連でも旧祖に近いようなところにいたけれど、町の名前まではいちいち覚えてない」
赤い瞳が見開く。そしてなぜか翳りを帯びたような気がしてふと胸が締め付けられるような感覚にとらわれる。
「ならば、トシマのことを覚えているか」
ああ、シキの声だ。実際にこの鼓膜で聞くのはどれだけぶりだろう。
「忘れるわけがない」
作品名:ワールドイズアキラズ 作家名:黄色