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ワールドイズアキラズ

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 埃っぽい、薄汚れた狭い部屋。見覚えのない部屋だ。
 辛うじて差し込む光は、朝日なのだろうか。遮るカーテンが外界とこの部屋とを遮断している。だけれどなぜか、それを開けようという気になれなかった。
 昨日は……正直公私混同はやめてくださいと何度も言いたくなるような夜の『公務』を勤め上げた後、それでも眠気とだるさに打ち勝って総帥のお部屋ではなく、自室にきちんと戻った筈だ。筈なのだが、ここはいったいどこだろう。
 世の中には、なかなか信じがたい現象がある。
 まさか、これはあの自分と同一の人物であるとは認めたくないような淫靡に微笑む『アキラ』の仕業だろうか。
 ありうる。
 ひとつ、ため息をつく。起こした体は昨夜のだるさ以外の痛みを訴える。床に寝ていたせいだろう。隣を見れば、キチンとベッドがあるというのに。
 しかし、薄汚れた部屋に合った、いかにもスプリングの壊れていそうなベッドに眠る影を見て驚く。
「総、帥……?」
 そこに眠る人影は、まぎれもなくシキのものだった。
 反応はない。
 シキは、自分の前で寝顔を見せるようなことはめったにない。
 ベッドの隣の一台の車椅子が、いやな予感を掻きたてさせる。
「総帥!? 総帥!! ……シキ!」
 その肩をゆすり、ついにはしばらく口にしていなかった名を叫ぶ。
 ようやっと、目を見開いた。だが、その目は茫洋としていて、焦点が定まってない。まるで、意志をなくした人形のように。
「シ、キ……?」
 やはり、反応はない。上掛けを乱暴にめくり、その手をおそるおそる取ってみる。冷たい手。力のこもっていない掌。ゆっくり離せば、だらしなく力をなくして、ベッドから滑り落ちた。
 総帥じゃない。
 総帥ならば、こんな腐抜けた姿は誰にも見せない。ただまっすぐ前を見て、そして世界を見つめている。
 だから、このただ静かに空を見つめるシキはシキであって『シキ』ではない。ついでに言うならあの淫靡なアキラが言う『シキ』でもないのだろう。どちらともまったく異なる時間軸にいる存在としての『シキ』と『アキラ』がここにいるのだろう。
 『シキ』の手を再びベッドに戻し、大きくため息をつく。
 そして、気づいた。
 ベッドサイドに置いてあった、一冊の古びた手帳。捲ってみればびっしりと細かい文字が丁寧に書きつづられている。これを描いた人間の心情を、反映するかのように。
作品名:ワールドイズアキラズ 作家名:黄色