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ポーラ・スター

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声が出ない。震える足でどうにか目に出る。
弱々しい、兄の姿に、眉を顰めても、手を出してこなかった。何時もなら、こんなにの姿を目にしたら真っ先に手を貸してくれるのに。何故。
分かっているが分かりたくなかった。
「兄さんだけは、俺の誤った行く末に気付いて正してくれようとしていた。兄さんだけが正しい行く末を知っていた。だからきっと、これが正しいことなんだ」
ルートヴィッヒが微笑みながら言った。
何が正しいのか。
自分はルートヴィッヒの歪んでいく道を正してやることは出来なかった。悉く失敗してしまったではないか。成功していれば、ルートヴィッヒはこれほど傷付かなかったはずだ。過ちを犯したと言うなら自分だ!
後一歩というところで、躯が傾いだ。
ルートヴィッヒは咄嗟に手を出そうとして、
そして気付いた。
ギルベルトも気付いていた。
ルートヴィッヒの躯が消えて行っていることに。
「ああ…ああああ…!」
ギルベルトの口からおかしなうめき声が漏れた。言葉にならない。
見開いた目に、確かに映る淡く光を放ちながら掻き消されて行くルートヴィッヒの姿が。
止めてくれ!
叫んだつもりが声にはならない。何度も首を振るうが、悪い夢は覚めない。
「うああ…!」
震える手を伸ばすと、ルートヴィッヒが儚く微笑んだ。
「愛してる、兄さん、永遠に————」
優しく微笑む顔が光に霞んで行く。
嫌だ!
やめてくれ!
光の残滓は指先に掛かることもなく、総て消えて行った。
触れることが出来ない。その姿を見ることも出来ない。
躯に流れ込んでくる膨大な国としての意識と感覚。
久しくギルベルトの感じなかった国というもの。今は敗戦の苦痛という感覚。
「ぎゃああああああああ———っ!!?」
その痛みだけではなく、今目の前で起った受け入れ難い現実にギルベルトは喉が裂ける程の叫び声を上げ、それきり意識を失った。




暗い部屋の中、ギルベルトは一人がけのソファに躯を投げだし座っていた。
左手に握る物が、耳のすぐ側でカチャカチャと鳴る。
ギルベルトは一つ鼻をすすると「…は…ぁ…」と震える息を付いて、左手に握るルガーのトリガーを躊躇いなく引いた。
響き渡る銃声。反動で右に傾ぐ首。
がくりと首が前に倒れ、左手の銃が床へと投げ出される。
だが、暫くすると、投げ出された指先はぴくりと動き、倒れた首が起こされる。
見開き、光を失った紅い瞳も、暫くすれば瞳孔がしまり、光が戻る。
そして、そこから新たな涙が流れ出した。
何度も繰り返した。
だが、人とは違う躯に自殺といつ行為はありえなかった。
「…くっ…うっ……!」
ギルベルトはもう一度、ソファの下に落ちた銃を拾うと、顳かみに押し付け、引き金をひく。
だが、そのおかしな動きをする銃は、尺取り虫のような動きを繰り返すだけで、鉛の弾を吐き出しはしなかった。
弾切れなのだ。
「…クソ…っ!…クソ…」
ギルベルトは泣きながら、マガジンを引き抜くと、膝の上に転がる弾を詰めはじめた。
何度も繰り返し、これが無駄なことだと頭の何処かでは分かっていた。
部屋の壁には、今までに何度も頭を撃ち抜いた弾が無惨に穴をあけていた。それだけでなく、この部屋は滅茶苦茶で、酷く荒れていて人の済んでいる様な様子はなかった。
ギルベルトはルートヴィッヒを失って、総ての生きるということを放棄した。
食べること、飲むことも止めた。それなのに、この躯は生き続けた。
人ならば死ぬであろうことを何度も繰り返した。
水に入り。躯を斬りつけ、首を括った。
だが何れも、一瞬の失神状態程度しかギルベルトに与えなかった。傷は瞬く間に消え、傷跡さえ残らない。
「う…うう…」
ギルベルトは新たな涙を流しながら、弾の込め終わったルガーを顳かみに押し付けた。
「いい加減にしろよ…」
背後からかかった突然の言葉に驚きもしない。
振り返らなくても声で分かった。フランシスだ。
「いつまでそうやってウジウジやってるつもりだよ!」
近づいたフランシスに手首を掴まれる。さした抵抗もしなかったが、あっさりと銃を顳かみから外された。何度も試した。死ねないのなら何お意味もない。
生気の欠片も感じないギルベルトに、苛立った様にフランシスが怒鳴った。
「こんなことルートヴィッヒが望んでるわけないだろ!」
その言葉に、突然ギルベルトがフランシスに襲いかかった。
「…アイツが何を望んでるって…?これを望んでるって…?俺がドイツになることを?アイツが望んだって!?」
血の様な瞳はその色を濁らせ、その周りの白目までも充血して、とても正気には思えない。
「そうだ…なあ戦争しようぜ…俺とおまえで殺し合うんだよ!そうして、おまえが勝ったら、全部お前のもんだ!なあ、今の俺なら勝てそうなんじゃぁねぇの?お前だってさ…!」
狂った様に笑う。
だが、彼が狂っていないことはフランシスは良く解っていた。これくらいで気が狂えるなら、もっと楽だったのだ。
胸ぐらを掴み、フランシスを床に押さえ付けるギルベルトをフランシスは静かに見つめた。
「今のお前なんかと戦わないよ。大体お前が、あの時俺に言ったんだ…弟を頼むって…結局同じじゃねえか…」
その言葉にギルベルトは顔を歪めた。
ギルベルトが自分を犠牲に使用とした様に、ルートヴィッヒも同じ様に自分を犠牲に兄を生かそうとしたのだ。
「お前ら、結局そっくりなんだよ……」
ギリギリと締め付けていた襟首を離すと、ギルベルトはまたさっきのソファに戻った。
「いい加減、会議に出てこい!」
半身を起こして、フランシスがギルベルトの背に話かける。ギルベルトは返事をしなかった。
本当は会議などどうでも良かった。国というの国民が作るのだ。議会があれば国はまわる。国の体現者が何かしなくてはならないわけではないのだ。彼がこのまま自暴自棄に生きていても国はきっと復興するのだ。
だが、それではルートヴィッヒは何の為にギルベルトに国を譲ったのかわkらない。それが許せなかった。
「なあ、ルートヴィッヒのことも少しは…!」
「考えてる!!?」
いきなりギルベルトが怒鳴った。
「毎日毎日!彼奴のことだけ考えてる!何故俺が残った!俺は何の為に今までアイツを育てて来た!」
そして急に静かになった。
「…こんなことの為じゃない…俺が残る為じゃない…」
ギルベルトは一度言葉を切ると、暗くなりかけた窓を見た。日の入らない北側の窓。
窓ガラスは割れて、破れたカーテンの隙間から群青になりはじめた空が見えた。
その空に光る星。北極星だ。
「…ルッツに前に話してやったことがある…お前は俺のポーラ・スターだと…天の中心。総ての星を統べる夜空の王…俺の総てはお前を巡る…それが…」
フランシスにはその光景が見えるようだった。幼いルートヴィッヒを育てるギルベルトの姿は、長い付き合いのフランシスでさえ驚く様な姿だった。良い兄であり、良い師であった。ギルベルトが子供を育てることなど絶対に出来はしないと思っていた。自分でさえ、そしてフランシスの知るどお国でさえ成功した者は誰1人いなかったのだ。
だが、ギルベルトは違った。違ったからこそ、今の姿なのかもしれない。
それっきり何も話すことはなかった。
フランシスは諦めると、そっと彼の家を出た。
作品名:ポーラ・スター 作家名:秋緒流々