グランがガチで宇宙人というだけのお話
本部の研究員から受け取った守のデータには、彼が必殺技を使った記録が残されていませんでした。それは誰が見ても奇妙なデータであり、そしてグランとの共通点でした。
エイリア1の身体能力を誇りながら必殺技を使わないグランは、キャプテンでありながらウルビダにエースを奪われていました。一見、必殺技を使わないことにこだわるグランに不信感を抱く者もいます。
『グラン』
「――はい、父さん」
試合後半の直前に突如入った養父からの通信。ジェネシスのメンバーは浮き足立ちます。中には一人だけ特別扱いを受けるグランに、あからさまに嫉妬の目を向ける者もいました。
『本当は星の使徒本部に招いて大々的に中継、宣伝したかったのだが……計画が狂った。雷門イレブンを潰してしまいなさい』
首を傾げるグランに突きつけられたのは予想だにしない命令でした。
「どういう、こと……?」
目の前が真っ暗になるような感覚。震えそうになる声を必死に抑えて、グランは言葉を返しました。
『彼らの成長スピードは脅威だ。もはや悠長に引き立て役として育てている場合ではない。二度と立ち向かってこれないよう、二度とサッカーなんてできないように体を壊してもかまわない。そういう意味で、潰せと言ったんだ』
「俺、こんなサッカー嫌だ」
衝動を抑えようと考える過程もなく、その言葉は自然と口を突いて出ていました。星二郎がハッと息を呑んだ様子が通信機越しに伝わってきてようやく、グランは自分が何を言ったのか自覚します。
「グラン!!お前……自分が何を言っているのか分かっているのか!?」
ウルビダに襟首を掴まれ、揺さ振られるままになったグラン。上手く頭がまわらないまま、彼は思ったことを口にしていました。
「おおおお俺は父さんが好きだ。エイリア学園のみみっグフゥッみ、みんらが好きだ。守が好きだ。そしてサッカーが好きなんだうぐぇっ。俺は好きな人を傷つけたり、好きな人が好きなもので何かをウグゥ~ッ傷つけ、る、ことに耐えられ……な…いっ!ハァハァ……そんなことしたくないんだよ、ウルビダちょっやめて舌噛む」
「それがなんだ!そんな中途半端な覚悟でジェネシスのトップをやっていたのか?笑わせるな!……私は父さんのためなら、そんな痛み何度だって耐えてみせる!」
『グラン』
星二郎の一声で、ウルビダはようやくグランから手を離しました。というより、捨てました。
すっかり生気を奪われたグランは苦労して息を整えながら星二郎の通信に答えます。
「な、なに……父さん?」
『お前の以前の身体検査で気になるところがあったから、その後少し調べさせてもらった。お前……ヒロトではないのか?』
グランと守は思わず目を瞠りました。
『お前はあれほどサッカーの実力がありながら、必殺技を使おうとしなかった。分析させたところ、お前には必殺技をつかうために必要な力が備わっていないのだという結果が出た。地球上の人間にはまずありえないことだそうだ。……もう一度聴くぞ、グラン』
ジェネシスのメンバーはもちろん、雷門や陽花戸の生徒まで、誰もがグランに視線を向けて星二郎の言葉を待ちます。
『お前は、何者なんだ?』
上手い言い訳でも思いつけば、迷いも生まれたのでしょう。しかし妙に凪いだ胸の内と冴えた頭では、醜い言い訳は何一つ思い浮かびませんでした。
――もう嘘は吐きたくない。だってどんなに頑張っても吉良ヒロトにも基山ヒロトにもなれない。そうだ俺は……ただのグランなんだから。
グランは、奇妙な偶然の重なる真実を語りました。
グランの告白によって震撼したエイリア学園は、試合半ばで撤退しました。しかし混乱の中、彼らに受け入れられることのなかったグランは行き場はありません。グランはその場に取り残されました。
「捨て宇宙人かー。捨て宇宙人ってなんかうけるね。あはは」
「おいやめろ吹雪やめてやれ、泣いてるだろ」
「うっ、父さん……みんなぁ……」
地べたに座り込んで涙をこらえるグランの前に、手が差し伸べられました。
「……守?」
「ほら。立てよ、グラン!」
手を借りて立ち上がると、そこには初めて会ったときと同じ笑顔の円堂がいました。グランが礼を言うと、守は一つ頷きます。そして雷門のメンバーに真剣な顔をして向き直りました。
「みんな、聴いてくれ。グランは、俺の友達なんだ」
「守……!?」
「今も俺たちを助けてくれた。悔しいけど、あの後俺たちがエイリア学園に勝てるかは難しかった。もちろん、やってみれば俺たちが勝ってたかもしれない。でもいま陽花戸中が破壊されなかったのは、こいつのお陰だ。だから――」
「円堂、だがこいつは……」
「そうだ!俺たちを油断させるための演技かもしれねぇんだぞ!」
「分かってる。でも、俺はグランの力になりたいんだ」
チームメイトから制止を受けても、守の決意は揺らぎません。嬉しい反面、グランは守の立場を心配しました。しかし今そんな発言すれば守の気持ちを踏みにじることになります。結局、何もできずにいました。
「それに俺は……俺も、グランと同じなんだ。皆に黙ってたことある」
グランは守の意図に勘付きました。
「駄目だ、守!俺は君のその気持ちだけでもう充分だよ。君まで俺と同じ思いをすることはないんだ!」
「なんだよ、まさか円堂まで宇宙人だとか言い出すんじゃないだろうな……?」
グランは庇うように円堂の前に出て、大きくかぶりを振りました。
「違う!守は地球人だ!」
「ああ、俺は地球人だ。ただ……俺が生まれた場所とこっちのサッカーは、ちょっと違うんだ」
その違いが本当はちょっとどころではないことは、この後彼の口から語られることになりました。
「話は分かった。……が、ちょっと待て。その前に皆に俺も一つ、はっきりさせておきたいことがある」
しんと静まりかえり、円堂が受け入れも拒まれもされていない中、鬼道が手をあげました。
「実はちょっと前から、突然周囲の人間の性格やステータスが変わったり、居たはずの人間が居なくなり、居るはずのない俺の実妹が居る。これはどういうことだ?何より周囲の認識している俺の性格がだいぶ違う。気まず過ぎて空気を呼んで合わせてみたものの……円堂、正直今もお前のことをクズと呼びたくてしょうがない。もしや俺も円堂と同じく、違う世界に来てしまったのか……?クッ……一体どうなっている!?なんとか言えクズが!」
「鬼道……お前、俺の知ってる鬼道じゃなかったのか。だから急に髪型がちょっと無重力仕様になったんだな。気づかなくて悪かった。イメチェンかツッコミ待ちかと思ってた」
円堂が混乱する鬼道の肩を叩いてやると、また別の手が挙がった。
「豪炎寺、どうした?」
「円堂、この際だから俺も言っておく。俺は昔から火が駄目なんだ。トラウマなんだ。正直チャッカマンでギリギリ。マッチは論外だ」
「えっ……じゃあ、ファイアトルネード打つ前後にメチャクチャ足腰震えて冷や汗ハンパなかったのって……」
「ああ、もちろん武者震いじゃない。単にびびっていただけだ。正直ファイアトルネードを打っているときの記憶がない」
作品名:グランがガチで宇宙人というだけのお話 作家名:ちまこ