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仮面ライダー烈戦伝 第3話

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「新しい改造人間の力とは、その程度のものか」風見は、足元に倒れるコマンダー・ジャッカルの顔面に強烈な剛拳を叩き込むと、顔を上げた。「このとおり、今のおれは、風見志郎という一個の人間だ。そして、お前たちが、自己満足のために殺した100個の命もまた、人間だ。おれは、お前たちに単純な死を与えるつもりはない。人間の・・・お前たちが軽視した人間ひとりひとりの命の意味をお前たちに教えながら、お前たちを冥府に送りとどけてやる」
その風見の後背で、黒い影が動いた。風見が反転しながらの回し蹴りを放つ瞬間に、彼の前面から一対の巨大な角と針が直進し、彼の上体に突き立った。コマンダー・スタグビートルとコマンダー・キラービーの角と針が無造作に引き抜かれると、傷口から血が吹き出た。
風見の口から、血を混ぜた泡があふれた。
その風見の全身にコマンダー・スパイダーから伸びた8本の爪が同時に刺さり、その首をコマンダー・ジャッカルの牙が噛み裂いた。倒れようとする風見を、コマンダー・スタグビートルの黒い巨体が跳ね上げ、コマンダー・マンティスの投じた大型の鎌がその脇腹に深々と突き刺さった。
風見は、鮮血をまきちらして、屋上に落下した。
「それが、あんたのいう命の意味ってこと?」
コマンダー・キラービーは、せせら笑った。
「教えてやろうか、風見志郎。お前も人間も、みんな弱者なのさ。弱者に許される意味がひとつだけある。そいつは、犠牲になる役割という意味だ。まあ、生贄と言い換えてやってもいい」
「ようするに、死ぬためだけの存在ってことだよ、お前も人間もな」
コマンダー・ジャッカルの憎々しげな声に、コマンダー・スパイダーの軽薄な口調がつづいた。
「つまり・・・人間なんざ無意味ってことかな」
コマンダー・マンティスの声に、5体の悪魔は、笑った。暗く悪意しかない笑いだった。
「今・・・なんと言った・・・」
膝に渾身の力をこめて立ち上がりながら、風見は、かすれた声を押し出した。
「人間に・・・人間に意味はないと言ったか」
風見の瞳が燃えていた。あたかも灼熱の炎を内蔵しているかのような真紅の光を宿した風見の双眸に射竦められて、悪魔どもは、嗤いを止めた。
「この星は、地球は、気の遠くなるほどの永き星霜を、ただ無為についやしてきたわけじゃない。すべての命は、この星で生み出された。人も動物も草花も、みんなこの星から生まれた。人間は、その地球が生み出した生物たちの頂点にたつことを自覚したとき、知ったのだ。この星を守るのは、人間なのだ、と。その人間に意味がないとは言わせない」
意味のない人間などいない。存在意義のない人間などひとりもいない。
あらゆる人間は、何かをなすために、この世に生を享けるのだ。そのなした功績に大きいも小さいも、軽いも重いもない。
家族のために、社会のために、地球のために善をなすために生まれてくるもの、それを「人間」と呼ぶのだ。
この星の緑を守るために、小さな苗を植える小さな手がある。
老いたものへの感謝の想いをこめて、介護する若い手がある。
涙を流すことしかできなくなってしまったその瞳に、喜びの光をともそうと支える暖かい手がある。
「育てる力、導く力、救う力、守る力。そういう力をもつ人間という生き物を侮辱するお前たちに問う。お前たちのその手は、いったい、なにを生み出せるというのだ」
怪人たちは、沈黙しながら、その形相が強い憎悪にゆがんでいく。それをにらみつけながら、風見の両手が手刀となって風を切った。
「人間を捨てたお前たちに、人間を語る資格はない。言ったはずだ、教えてやる、と」
怒りを帯電させた風見の両手が大きく旋回しながら、右手の手刀が暗雲に閉ざされた天空をさして掲げられる。その右手と交差しながら、左手の手刀が天に突き立った瞬間、風見の腰に栄光のベルトが姿を現した。
人類を幾多の危難から守り抜いてきた不敗と常勝のしるし、ダブル・タイフーンである。
「人の命が放つ真の価値の輝きを!」
変身、V3ッ!!
見よ、ダブル・タイフーンの超高速回転によって、風は光を生み、光は熱を放ち、熱は、極高温にたっして暗黒の天へと昇っていく。
風と光と熱が生み出す無敵の鎧に包まれて上昇していく風見志郎は、さながら紅の龍にも見えた。その体が、華麗な空中回転とともに、ふたたび屋上に降り立ったとき、風見は、もうひとつの名をもつ英傑へと姿を変えていた。
「やっと変身したわね・・・仮面ライダーV3」
コマンダー・キラービーの憎しみを込めた声がV3の顔面にあびせられる。
「おれたちに偉そうな説教を垂れた礼は、高くつくぞ」
コマンダー・スタグビートルは、怒りに一対の角を大きくふるわせた。
四条もの電光が天と地をつらぬき、4本の黄金の槍は、木を裂き、電柱に盛大な火花を咲かせる。
それが合図のように、5体の怪人とひとりの英雄の影が高速で交錯した。
(父さん、父さんの腕時計、覚えてるかい? あの日・・・腕時計が父さんの遺品になったあの日から、おれ、ずっとはめてるんだ。もう、何回修理したかな。でも、こいつ元気に動き続けてるんだ。父さんが歩むべき時を、今も刻みつづけているんだ)
V3の音速のパンチが、死角にまわりこもうとするコマンダー・スパイダーの機先を制する。二連撃となったパンチは、瞬間的に巨大な蜘蛛の長い爪2本を切断するように破壊している。
(母さん、覚えてるかい? あの日・・・おれの目の前で母さんが殺されたあの日の朝、母さんが作ってくれた肉入りピーマン。あの日、はじめて、おれ、ピーマンが食べられたんだぜ。母さん、おれにピーマン食べさせるために、ずいぶん料理に苦労していたよな。あれ以来、おれ、ずっとピーマンが食べられるんだ。機械の体になったけど、ピーマンは食べられるんだ。苦くて、ちょっと甘い。今のおれには、それが・・・おふくろの味なんだよ)
上空から迫るコマンダー・ハニービーが振り下ろす針の剣を叩き折り、バランスを崩したその顔面に鋼鉄をも断ち切るV3の手刀が直撃する。
(雪子、覚えているか? お前の学校の親友だった子が手紙をくれたよ。昨年結婚の報告をくれた彼女だ。その彼女に赤ちゃんができたらしい。女の子だと書いてあった。彼女は、自分のお腹の子に雪子と名づけてくれるそうだ。お前との思い出と友情を永遠のものにしたいから、と書いてあった。雪子、わが妹よ、お前はいい友達を・・・本当にいい友達をもっていたんだな)
力技で押し潰そうとするコマンダー・ジャッカルめがけ、V3の五体が風になった。超音速の短距離ジャンプから連続して必殺技の体勢に移行する。
「V3・フラッシュ・キックッ!!」
怪人のけむくじゃらの黒い体と意思が、絶叫を放ちながら両断され、赤い爆光に変換する。爆音と雷鳴がかさなり、コマンダー・ジャッカルは、その爆発の中に消えた。
仮面ライダーV3・風見志郎は、あの日、目前で殺された家族ひとりひとりのことを忘れたことはない。
好人物と呼べる父親、温厚な母親、おっとりとした妹。どこにでもあるような家庭、平凡を絵に描いたような家族。その当たり前の日々と当たり前の笑顔が、理不尽に損なわれたとき、風見家の長男は、当たり前の日々にまさる幸福はなかったことを知った。