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仮面ライダー烈戦伝 第3話

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あの頃、あくびが出そうなほど退屈だと思っていたあの家が、かけがえのないものであったことを知らなかった風見志郎は、血の涙とともにおのれを責め、そして、気づいた。
失われた愛は、決して還ることはない。だから、だからこそ、愛を、自由を、平和を決して奪ってはいけない、ということを。
あの日、あの後、泣き続けていた自分と、彼がヘルメットをあずけたあの幼子の姿が重なる。
おか・・・あさ・・・んが・・・動かなく・・・なっちゃった・・・の。
V3のダブル・タイフーンが、突然、高速回転を再開した。仮面ライダーV3の全身に沸騰するようなエナジーが供給され、V3の両眼がエメラルドの輝きを発した。
超音速で暗黒の天蓋へ飛翔したV3は、轟音とともに降下しながら、膝を抱え、空中回転を始める。回転は、瞬間的に音速を突破し、炎に包まれた巨大な彗星となって飛び立った地へと飛来する。
「ば・・・!」
「ばかな・・・!」
不意を突かれ、V3の射程に捕捉されたコマンダー・スパイダーとコマンダー・スタグビートルが、背を向け、逃れようとする。その鋼鉄よりも硬いはずの外甲を、ゆるやかに軌道修正して突入する真紅の炎が包み込んだ。
「V3・回転・二段キックッ!!」
すべてを焼き尽くし、斬り飛ばす紅蓮の刃が、悲鳴をあげる二体の悪鬼の体をよっつに分解した瞬間、屋上に着地したV3の背後で大規模な爆発が生じた。
仲間のあまりに無様な死に様に、残ったコマンダー・マンティスとコマンダー・キラービーは、恐怖を押し隠した舌打ちをした。
「仮面ライダー・・・あたしが一番嫌いなタイプの男」
コマンダー・キラービーは、無表情なはずの相貌に醜いばかりの憎悪をたぎらせて、そう言った。
「あたしたちが100人ばかりの人間どもの命を奪ったから、あんたはそこまで猛るのかい。まったく馬鹿みたいさ、自分を見失ってさあ。冷静になりなよ。考えてみな。あんた、そんな体になって、やつら人間からなんて言われたよ。あんたがどれほど人間らしく振舞おうと、あんたのその姿、その力はどう見たって人間じゃない。化け物さ。人間は何も知らない。過去のあんたの栄光なんざ、何も覚えちゃいない。だから、あたしもあんたも同じ怪物として敵視される。わかるかい、あんたが強くなればなるほど、人間は、あんたを恐れることになるんだよ」
「怪物、化け物。ついでに、妖怪、宇宙人と呼ばれても、おれはかまわない。この姿と力がゆえに、人々の恐怖の対象となることなど、おれはとうの昔に超えている」
コマンダー・キラービーの姑息な懐柔策を見抜いたわけではなかった。その答えこそが、仮面ライダーV3としての年月の中で得た風見志郎の理念であり、信念であった。
「風見志郎は、おれが人間であることの証だ。今でも父さんと母さんの子、雪子の兄であることの証だ。そして、仮面ライダーV3は、たとえ嫌われ憎まれ、恐れられようと、果てしのない未来を信じて進もうとする人々の気概の証なのだ」
思想が受け入れられず、不遇な日々を送る人々がいる。だが、その思想が必要になった時、残された人々は、その人が同胞のために懸命に叫んでいたことを知る。
どれほど疎まれ、蔑まれようとも、その存在が人間の、地球の未来を照らす光になれればそれでいい。理解してもらえなくても、わかってもらえなくてもいいと、V3は思う。
大義のために戦うのではない。偉人として語り継がれるために、命をかけるのではない。
目の前で泣いているたったひとりの人に、かすかな微笑を返してあげるために、いかなる死地にも飛び込んでいく。
それが仮面ライダーV3の生き様だった。
「おれは、お前たちとは違う。おれは、守ってきた。人々の笑顔だけじゃない、このおれの心の中の“人間”をも大事に・・・大事に守ってきた。だからおれは、この醜い姿をさらして、人類のために戦ってこられたんだ!」
姿の美醜など関係ない。力の有無など取るに足らない。
人は、その心の美しさ、尊さに惹かれあうものだからだ。
もう一度言う。おれは、お前たちとは違う。おれは・・・人間なんだ!
「ほざけ!」
コマンダー・マンティスの投じた鎌が唸りをあげる。それを難なく叩き落し、みじんに砕いたV3は、ふたたび空へと舞い上がる。
「おのれ!」
奇怪な音を巻き上げながら羽根をふるわせ、コマンダー・キラービーの追撃が眼下より迫る。コマンダー・キラービーが無数に放擲する長く太い針の群れ。だが、それらは、V3を傷つけることができない。V3のベルトが発する猛烈な風の渦流が、垂直上昇にともない生み出される烈風とあいまって、竜巻に近い乱気流となり、針の速度と軌道を変えているのだ。
針の群れは、雷光が支配する暗黒の空をいろどる単なる光のオブジェと化し、虚しく地上に落下していく。
「人の想いを忘れ、人の涙を失い、人の温もりを捨てた悪魔どもよ、せめて貴様たちが奪った人々の姿をその目に焼きつけて散れ!」
V3の五体が、ふたたび長く赤い光の尾を曳く龍と化した。先にコマンダー・キラービーが、つづいてコマンダー・マンティスが、V3の送る死者たちの映像に人工頭脳を支配される。
それは、風見志郎が心に深く深く刻み込んだ慟哭の記憶だった。
(こ・・・殺される・・・!!)
無残な死体、おびただしい血。それらは、すべて自分たちが殺した100人を超える人々の亡骸だった。
その根源的で無制限の恐怖が、自分の身に起こる出来事として具現化され、それが戦慄となって全身を緊縛した時、仮面ライダーV3の姿は、すでに回避不能の至近距離にあった。
「V3・キックッ!」
姿だけでなく心までも怪物と成り果てた二体の体は、その悪意とともに爆炎に変換した。
その爆炎と黒煙を背景に、V3の体勢がくずれ、片膝をついてしまう。失血がダメージとなって、黒い澱のように体内に拡がっていくようだ。
だが、敵はすべて倒した。これ以上の犠牲者が出ることを食い止めることはできたのだ。
(あの子のもとにもどらなければ・・・)
V3の脳裏に、風見志郎がヘルメットをあずけた男の子の姿が浮かんでいた。もうすぐ雨になる。あの子とその母親の亡骸をそのままにはしておけなかった。
身体をひきずるように、立ち上がる。
その途端、彼の視界は漂白され、全身がにえたぎるほどの灼熱感に覆い尽くされた。
なすすべもなく、その場に倒れる。倒れながら、V3のかすむ目に、いつのまにか正面に現れた青年の姿が映っていた。
コバルト・ブルーを基調とした美麗な軍服のような衣服に九頭身の痩身をつつんだ青年。白銀色の長い髪、ブルー・ダイアモンドを象嵌したような双眸。これほどの美青年を、V3は見たことがなかった。
「あなたがたには敬意を表さなければならないのかもしれません」
その青年は、そう言いながら、ゆっくりと歩んでくる。
「人間が専横する地球など、改造人間の100体も創れば簡単に浄化できると思ったのですが・・・私の考えは間違っていたようです」
動くこともできずに倒れたままのV3を見下ろすように、美青年は立ち止まった。