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仮面ライダー烈戦伝 第3話

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「人間と機械を融合させたあなたがたのような存在が、私の人間に対する認識が誤っていたことを教えてくれました。認めましょう、あなたがたは、コマンダー型改造人間よりも高い性能を有していることを」
V3が見上げるその美青年の瞳は、まさに宝玉のような薄蒼いきらめきを発している。さきほどの力といい、この姿形といい、この青年が単なる人間であるとは、とうてい思えなかった。
「だが・・・彼らコマンダー型改造人間計画の総責任者は、この私でね。失態の責任をとらねばならぬのですよ」
仰ぎ見るこの青年が、人間をコマンダーと呼ばれる改造人間にした張本人と聞いたV3の緑色の目に、光が走った。
「なんだと・・・」V3は、激痛に麻痺する全身に、さらに過酷な命令を発して、必死に立ち上がろうとする。「貴様が・・・コマンダーたちを創ったと言ったか」
「ええ、なるべく私たちは、手を汚したくなかったのでね。そもそも、私たちは、戦いという愚劣な手段を好まない」
美しいとしか形容しようのない容姿をもったその青年は、皮肉を言っているのではないようだった。
気力だけで立ち上がったV3を不思議そうに見つめる青年の相貌を、閃き、闇を貫く雷光が妖しいまでに美しくきわだたせる。
「貴様・・・何者だ」
「私の名は、アルビオン。エンジェルのアルビオン」
自らを天使と名乗ったその青年は、理解できないという表情でV3の仮面を見つめた。
「不退転といい不撓不屈と言う。しかし、わからない。あなたたちは、なぜ、そうまでして自分を追い込むのです。なぜ、激しく傷ついても立ち上がろうとするのです。人間は、あなたがたのような好戦的な方法をとらずとも、守ることはできるのですよ」
「人間を守る? 改造人間を量産し、地上を浄化すると、たった今、貴様の口から聞いたはずだがな」
V3は、アルビオンと名乗るこの新たな敵の攻略法を講じながら、油断なく応じた。
「私たちは、すべての人間を殺滅するつもりなどない。私たちに対し、反抗的な一部の人間たちさえ排除すれば、あとは平和裡に統治するつもりだったのです。でも、あなたがたは、私たちに抗う道を選んだ。なぜ、あなたがたは、そうして戦う道ばかりを進もうとするのです」
「あの機関車のおもちゃを、お前は見たか」
V3の意外な答えに、アルビオンは沈黙した。
「しろたさとこさんと言うそうだ。その人は、お前の言う“反抗的な一部の人間”として殺された。彼女には、小さな子供がいる。彼女はな、その子のためにおもちゃを買ってあげたんだ。機関車のおもちゃさ。そのおもちゃを買うためにあの親子は、今日、この繁華街に来て、そして殺された。言ってみろ、アルビオン。あの母親は、何に反抗し、いかなる罪を犯したというのだ」
V3は、全身を刺す痛みを凌駕する怒りをこめて、アルビオンを凝視した。
「反抗的な一部の人間、平和による統治。どれも聞いたようなセリフだ。すべては、お前たちの目論む野望を正当化するための方便にすぎない」
来い、アルビオンとやら。コマンダーたちに殺された人々だけではない。コマンダーにさせられた人たちの悲しみも、このおれが背負ってやる。
「いずれにしても、私にも立場というものがある。あなたとは戦わざるを得ないのでしょうね・・・」
V3が至近距離から繰り出した亜音速のパンチを難なくかわしたアルビオンは、寂しげな口調でそう言った。
轟音が大量の風を巻き上げて天空へと吹き上がる。V3の身体は、虚空の中で、すでに必殺技の体勢に入っている。二体の怪人を一瞬にして葬り去ったあの技の破壊力を飛躍的に増大した深紅の光が、立ちつくしたままのアルビオンに地響きとともに急速に接近する。
「V3・スーパー大回転・キックッ!」
そう叫ぼうとしたV3であったが、その五体は、アルビオンの総身から放射された百億もの銀色の光と熱に撃ち抜かれ、大地に叩きつけられていた。
超音速で発動された技である。V3がその速度のまま叩きつけられた屋上は、まるでナパーム弾が爆発したような惨状と化していた。
炎と煙がくすぶる瓦礫の中で、V3は、変身能力を失い、風見志郎の姿にもどっていた。今の彼には、指先をわずかに動かすのが精一杯であった。
「人と機械。機械と人。ともに人の領域を出ないものです。人の領域を出ないものがいくら融合したところで、あなたの身体は、やはり人智を超えることはできないのです」
アルビオンの声には敵意がない。悪意も感じられない。ただ、風見を哀れむ思いだけが伝わってくる。
アルビオンは、瓦礫に埋もれ、傷ついた風見を見下ろしていた。だが、その足は、地面についてはいない。
彼の身体は、宙に浮揚していた。
「すまない、風見志郎。私は、ひとりの天使として、すべてをかけて人間を守ろうとするあなたを尊敬すらしています。しかし、やはり私は、あなたを屠り、新たなるプロジェクトに着手しなければならないのです」
アルビオンの白く美しい人差し指が、とどめを刺すべく倒れたままの風見に照準を合わせる。上空で増幅する強大な熱源を感知しながらも、もはや風見に動く余力は残ってはいなかった。
戦いたい。戦わなければならない。なのに、身体が動かないのだ。
ここまでなのか。悔しさと無力感が胸の中に湧き上がってくる。
(すまん・・・)
風見は、彼のヘルメットをあずかっているはずの、あの幼子に心の中でわびた。
だが、アルビオンの照準は、射撃寸前に風見の頭部を外れた。突然、屋上に二騎のマシンが、爆音とともに飛来したのだ。
そのマシンを追尾して、アルビオンの熱線が大気を薙ぐ。その虚をついて、アルビオンの後背に二人の男が放つ強烈な跳び蹴りが迫った。
が、その跳び蹴りをも、空中に張り巡らされた不可視の壁に阻まれる。目を灼く黄金の電撃がほとばしり、男たちは、華麗な回転の軌跡をのこして地上に降り立った。
二人の長身の青年は、風見の前に立ちはだかった。
風見は顔を動かし、焦点のあわない目で、その男たちを見上げた。
「伝言を伝えに来たよ、風見」
かすかな微笑みとともにそう言った男。その男を風見は、こう呼んだ。
「本郷先輩!」
「お前のヘルメットを大事に抱きしめて泣いている男の子に会ったよ。その子から、お前に伝えてくれと言われたんだ」
本郷猛の声を引き継いで、もう一人の青年が静かに口を開いた。
「あのおにいさんが、ぼくを守ってくれた。だから、もう一度会いたい。会って、ちゃんとお礼を言いたい・・・そう、あの子は言ったよ。どうだ、風見。あの子の願い、かなえてやらないか」
「・・・一文字先輩」
風見の視界が、ふとにじんだ。だが、その目の中で微笑む一文字隼人の声は、熱い響きとなって、風見の胸にとどいていた。
風見に二本の手がさしのべられた。
「さあ、立てよ、風見志郎。お前にその姿は似合わない」
「今度は、おれたちが一緒だ」
友よ、血盟の友よ、お前が命を燃やす時、おれたちは、その傍らにありたい。お前と一緒にこの魂を極点にまで燃焼したいんだ。
さあ、笑顔を見せろよ。おれたちの知っているお前は、こんなところで倒れる男じゃないはずだ。
だから、風見志郎は、ふたりの手に自分の右手をゆだねた。