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しょーとしょーと 5作

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これも一種の「恋は盲目」



 どうか忘れないで、と少女は笑った。
 私のことを。出逢ったことを。話したことを。さよならしたことを。
 長い金髪を翻し、踊るような軽い足取りで、彼女は笑って去っていった。
 残されたのは不思議な感覚と、触れた手のぬくもりと、多額の食事代。

「――忘れないで、か」

 忘れられるものか。
 なにせ相手は、食事に付き合って欲しいと人を無理矢理レストランへ連れ込んだ挙句、後はよろしくと金も払わずに去っていった悪魔のような女なのだから。
 ぱしゃん、と水が跳ねて泡が頬についた。袖口で乱暴に拭い、ウソップは新たな皿へ手を伸ばす。
 唯一の救いは、レストランのオーナーが気の良い人だったことだろう。事の顛末を見届けていた彼は、本来なら数日働いても返せない分の食事代を今日一日の皿洗いで見逃してくれると言った。本当はその条件も解せないところだが、見ず知らずの女についてきてしまった自分も十分悪かったのだから仕方ない。
 仕方ない、のだが。
 しまったなァ、と今更思う。どうにも自分は昔から、あの手の容姿をした人物に弱い。金の髪と青い瞳、白い肌と綺麗な手。共通のものをもつ人物に、もういくつ騙され遊ばれたか知れない。

「でも好きなんだよなァ」

 あの髪が、あの目が、あの透き通るような肌が、長い指が。
 それはもう、昔からずっと。脳裏に過ぎる人物と出会い話し笑いあった瞬間からずっと、好きで愛しくて堪らないのだ。
 少女の金髪を思い出し、苦笑いを浮かべる。なんだか次の際も、同じ鉄を踏んでしまう予感がした。

「恋っておっそろしー!いや、俺が馬鹿なだけか。やべェよな、いい加減に懲りねェと」

 へたをすると、またアイツの足蹴りが飛んでくる。何度同じ事を繰り返せば気がすむのだと怒鳴られる。なにかと世話を焼いてくれる幼馴染みは、とにかく容赦がないのだ。
(……しょうがねェじゃんよ、好きなんだから)
 どちらが、とは口が裂けても言えないけれど。

 濯ぎ終わった皿が、カタリと音を立てる。ある物語のワンシーンが描かれた、それ。全ての海の魚がいると語られている場所。ふとそれに目をやったウソップは洗い物のことなど忘れ、目を細めて笑った。


作品名:しょーとしょーと 5作 作家名:oruba