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ありえねぇ!! 1話目

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「息子が意識不明の重体なんだ。呼ばれた親御さん連中も、きっと気が立っている。そもそもダンプカーに轢かれた元凶ってさ、お前がぶん投げた『空飛ぶ自販機』を間近で見る為だったろ。そんなありえねぇ事やっちまったお前自身が、のこのこ病室に現れれば? 鴨が葱背負って鍋の中に飛び込むようなもんだ。きっと責められる」

「逆恨みじゃないっすか」

「鬱憤溜まって逆切れした母親に、理屈なんて通じるかよ。っつーわけだから、例え罵詈雑言浴びせられても、耐えて人間サンドバックになっとけ。で、切れそうになったら逃げろ。もし手を上げねえ自信ないなら、ほとぼりが冷めるまで見舞いに行くな。いいな?」

「うすっ」


色々理不尽だとも思ったが、ここに就職して今日まで、トムの言うことを聞いていれば、間違いはなかった。


自分専用のロッカーの奥を弄り、スペアの財布を取り出す。
喧嘩に明け暮れる毎日なので、クレジットカードの類と保険証、運転免許等は全て自宅保管し、現金しか持ち歩かないよう心がけている。

ロッカーに置き金なんて、普通ならヤバイだろうが、この会社は債権回収業を営み、やくざ屋とそこそこ付き合いもある。
セキュリティは万全、泥棒が気軽に入れる訳ないし、何より自分は『池袋最強 平和島静雄』だ。
チンピラまがいの訳判らない他の上司や手癖が悪そうな同僚も多々いるが、社内で盗み行為があっても、自分とトムのロッカーだけは荒らされる事も無かったし、喧嘩や難癖を仕掛けてくる奴も皆無だ。

大体、自分に仕事以外で話しかけて来るのもトムだけだし。
結構寂しい社会人ライフである。
だから、慕ってくれるのが8つも年下の少年だろうと、とてつもなく嬉しかったのだ。


「トムさん、見舞金っていくらぐらい包むんでしたっけ? 10万でいいっすか?」
「アホか、どんな援交だよ。 慰謝料請求されてる訳じゃないし、手ぶらか果物の籠盛で十分だべ。病院一階に専用の売店あるから、3~4000円ぐらいのやつ持っていけ」
「うすっ」



★☆★☆★



三月も上旬ともなれば、日中は春の陽気に包まれ、コート無しでも十分暖かい。
けれど日が落ちれば冬の冷気の残り香を感じ、バーテン服という軽装姿にはきつい肌寒さだ。

タバコを咥え、ポケットに両手を突っ込み、背を丸め早足で病院に向えば、建物が丁度見えた頃、遠くの方から甲高い馬の嘶(いなな)きが耳に届いた。


「……セルティ?……」


そういえば気のいいデュラハンの友も、竜ヶ峰の事をとても気に入っていた。
心優しい彼女の事だ。
彼の事が心配で、日が暮れると同時に飛び出して来たのだろうが、日中よりは人目に付きにくい点でマシとはいえ、あの姿はヤバイ筈。

ふーっと紫煙を吐き出し、更に足を速める。


無差別殺人がほいほい起こる物騒な昨今に加え、先日の【切り裂き魔事件】もあり、来良総合病院は現在、大量の警備員を配置している。
其処に怪しさ満載の黒いライダースーツで、猫耳フルフェイスヘルメットを被ったまま入れば、まず誰かに呼び止められ職務質問を喰らうだろう。

セルティは会話もできないし、何より首から上が無い。
ヘルメットを取り上げられでもしたら最悪だ。
阿鼻叫喚のパニックに陥った末、すぐに警察に通報される。



それから五分で病院前にたどり着いたが、周囲を見回せば予想通り、人目につかない大樹の下、暗がりに停めたバイクに腰を降ろし、静かにうな垂れているデュラハンを見つけた。

やはり中に入るのを躊躇い、途方に暮れていたのだろう。

声を掛けようと片手を挙げた瞬間、口からぽろりとタバコが落ち、目が点になった。
一応サングラスを外し、しつこく目を擦ってみたが、やっぱり幻影は消えてくれない。


「おいセルティ、何だそりゃ?」
『静雄、お前には見えるのか? 見えるんだな!!』

嬉々として立ち上がり、飛び跳ねながらPDAを突きつけてくるセルティの後ろ。
黒バイクの後部座席には、『竜ヶ峰帝人の首』が、えぐえぐと嗚咽を漏らし鎮座していた。


ありえねぇだろう!!



★☆★☆★




それは今から丁度10分前。
セルティの頭の中は、ここ数年かつて無いほどパニックを起こしていた。


思考は混乱し、PDAに入力する指も震えて満足に働かない。
何度も何度も入力しなおし、たった一文を長い時間かけて完成させると、大急ぎで目の前の物体につきつける。


『み……、みかどぉぉぉぉぉぉぉぉ!! 一体お前に何があったんだ!! なんでこんな姿にぃぃぃぃぃぃぃぃ!!』


彼女の絶叫交じりの問いかけに、泣きじゃくるのに忙しい彼の首は、答える余裕もなかった。


★☆★☆★


そもそもセルティが帝人の事故を知ったのは、静雄が見ていた同じ番組だった。
東京の池袋という都会で丸々一年過ごしておきながら、いまだ田舎からでてきたばかりの純朴で平凡を絵に描いたような少年でいられる彼を、彼女は本当の弟のように可愛がっていた。


そんな大切な家族が意識不明の重体なんて。
大体、今回の事故の発端だって、明らかにおかしかった。


帝人は、確かに静雄と深くはないが浅からぬ交流がある。

彼の他に類をみない強さに憧れ、怖がるどころかいつも目をきらきらさせ、非日常を絵にかいたような静雄を慕っていた。
空気を読める子だから、静雄がタバコをふかして一服していたり、缶コーヒー片手に公園のベンチでだらけていた時などのリラックスタイムを見つければ、嬉しげにちょこちょこ駆け寄り、五分ぐらいの短い会話を楽しみ、沸点の低い彼がストレスを感じないうち、その場を潔く辞する賢さを持ち合わせていた。

なのに空高く吹っ飛ぶ自販機を見つけたからといって、喧嘩の真っ只中、大層気が立っている静雄がいると理解し、あえてミーハー根性丸出しで見に飛び出すなど、帝人の性格上ありえない。


また少年は、自分と他数名しか知らないが、今池袋で最大規模を誇るカラーギャング《ダラーズ》の《創始者(アダム)》というの裏の顔を持っている。
現在、矢霧製薬がネブラに吸収合併されて潰れ、全てを失った矢霧波江が、自分を破滅に追いやった帝人に対し、怨みを持ちつつ姿をくらませ行方不明になっているとも聞いている。

事故ではなく、事件の匂いがぷんぷんする以上、誰もが出入りできる病院に置いておくなんて、心配で気が狂いそうだ。
できればこのまま帝人の体を掻っ攫い、新羅のいるこの自宅に運び込みたい。

「セルティ、君がどれだけ愛情深くて心優しい妖精なのか、僕は再確認できて嬉しい限りなんだけど、帝人君の体を今動かすのは反対だ。命にかかわるかもしれないし、第一彼は集中治療室に運ばれている。体の至る所をコードで繋がれ、24時間誰かしらモニターで監視されているんだ。不信人物が入り込める余地はない筈だ。だから大丈夫だって」

もしも新羅が捨て身で彼女を止めなければ、真っ昼間なのに黒バイクで病院に特攻をかけ、今頃は警察に追いかけられていたかもしれない。

ならば、見舞いに行けない彼女に代わり、新羅に様子を見てきて貰おうかと思ったのに、彼は午後から外せない仕事があった。
作品名:ありえねぇ!! 1話目 作家名:みかる