あいのうた
―ノイズに塗れた、声が聞こえた―
(サイケ君、)(苦しい、の?)
姿は見えない
だけど、ザーッというノイズに塗れて、微かに聞こえる小さな歌声
悲しい、苦しい、そんな感情を詰め込んだような歌声
(どうしたの、)(なにが、あったの?僕には言えない?)
(ねぇ、サイケ君…)
―涙に塗れた、声が聞こえた―
(みかどくん?)(みかどくん、どうしたの?)
パソコンの前で嗚咽を漏らし、膝を立てて蹲る帝人
なにもかも拒絶するような、否定するような姿
感情を吐露するように零れる涙は止まることを知らない
(なんでないてるの?)(ぼくじゃ、みかどくんのやくにはたてない?)
(ねぇ、みかどくん…)
(液晶越しの距離は、今はこんなにも冷たくて遠いよ)
<のいずにまみれた、なみだにまみれた>
(こえはとどくのに、ねつはとどかない)
***
「サイケ君は本当に、歌うのが好きなんだね」
思わず漏れた感想に、サイケは歌うのを止めて帝人を見つめる
『ぼくにうたのたのしさをおしえてくれたのはみかどくんだよ』
「え、僕…?」
『みかどくんがぼくにいってくれたもん!』
『うまくうたおうとしなくていいって!たのしくうたえばいいんだって』
だからぼく、うたうのがすきなんだ!
そう言って、サイケはきらきらした笑顔を溢す
暫くぽかんと固まっていた帝人だったが、そっと微笑むと「うん…そうだね」と呟いた
そしてまた歌い始めたサイケを眺めながら、先ほどのサイケの言葉を反芻する
『みかどくんがぼくにいってくれたもん!』
『だからぼく、うたうのがすきなんだ!』
(ちゃんと、覚えていてくれたんだね)
(嬉しいなぁ)
『みかどくん!』
「…わっ!な、にサイケ君?」
『ちゃんときいててね!いまからうたうよ!』
「大丈夫、ちゃんと聴いているから」
帝人の言葉にえへへと笑んで、サイケは歌を紡ぎだす
(どうかこれからも、)(サイケ君が同じ気持ちでいてくれますように)
そんなことを祈りながら、帝人は目を瞑ってサイケの歌に耳を澄ませた
<うたうたのしさ、おしえてくれたのは>
(だいすきなきみ!)