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ありえねぇ!! 2話目

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「はっ、信じる? 俺があんたを? ばっかじゃねーの? あんたを心の底から崇拝していた沙樹は死んだ。杏里も消えた。全部てめぇが裏で糸ひいてやがった癖に」
「言いがかりで人を批難するのはよくない。三ヶ島沙樹は不幸にも、黄巾賊とブルースクエアの抗争に巻き込まれたんだろう? 園原杏里は、贄川春奈から奪い取った那須島先生とかけおちじゃなかったっけ? いやぁ~、今日日の高校生は情熱的だよねぇ。凄い凄い」

ぱちぱちとやる気の無い、うざい拍手を手で払いのける。

「……白々しい。杏里を返せ……」
「だから、どこにそんな証拠がある?」

真っ白い廊下のど真ん中、早足で歩きながらお互いガンを飛ばしあう。
臨也は春、来良学園に入学した時からずっと、帝人に目をつけ狙っていた。
正臣がどんなに防波堤になっても、チャットや待ち伏せ、偶然を装っての遭遇等、反吐が出そうなほど甘い事を囁きながら、蛇のように執拗に付きまとっていたのだ。


「帝人だけは、絶対てめぇにやらねぇからな。金輪際近づくな!!」
「それは俺の勝手。君の指図は受けないよ」
「帰れ。今すぐここから出ていけ」
「紀田くん、【病院内はお静かに】って、子供でも知っているよ。君はもう一度、幼稚園から学んできた方がいいんじゃない?」
「中二病に説教される、いわれなんてねぇよ」


次の角を右に曲がれば、帝人がいる集中治療室だ。
廊下と部屋を隔てる一枚の大きなガラス、その中に幾多のコードに繋がれた少年が、目覚めぬまま横たわっている筈。

帝人を突き飛ばした男をシメル為に三十分も離れられたのは、医者に、『今の所命に別状はない』と言われた為。
但し『このまま目覚めない可能性もある』とも宣告されたが。

臨也を追い越し、小走りで角を曲がる。
そして誰も入れない筈の真っ白い部屋をガラス越しに覗き込めば、何故かその場にそぐわないバーテン服を身に纏い、真っ黒い手袋を嵌めたチンピラが、堂々と果物の籠盛片手に帝人のベッドにいる。

鍵がかかっている筈のドアを見れば、普通に拳形に穴が開き、破壊されていて、どうやらあの馬鹿は、己を殺菌消毒もせず、白衣もマスクも身につけずに、侵入しやがったらしい。


「この、平和島【駄目】雄!! てめぇ、俺の帝人に何やってんだよ!!」
紀田の怒声は、残念な事に、ガラス窓の内側に届く事はなかった。




その頃、中の二人はというと。



セルティから貰った影でできた手袋を装着した静雄は、帝人の首を掴み、ぎゅうぎゅうと彼の本体の胸に押し当て、力づくで体の中に入れようと頑張っていた。

《静雄さん!!  私……、潰れる潰れる!!》
「おかしい、全然はいらねぇし、通り抜けもしねぇ」
《いにゃにゃにゃにゃ?!! 死んじゃう、砕けちゃう、ギブギブギブ?!!》
「もうちぃと我慢しろ、根性なし!! ……なんではいんねーんだよ、くそぉ!!」



★☆★☆★




人間、お湯に入ればどっと体が重くなるものだ。
平和島幽も例外ではなく、自宅の湯船につかりつつ、とろとろと落ちてくるまぶたと戦っていた。


飼い主の気持ちも知らず、爪を立てて洗われるのを抵抗した仔猫は今、洗面器で急遽作った【独尊丸専用お風呂】の中で、気持ちよさげに目を細め、ぺろぺろと毛づくろいをしている。


気持ち悪かった汗と、瓦礫の粉塵もすっかりと洗い流せた。
自分と仔猫も綺麗に洗えば、それなりに時間もかかる。風呂場の時計はとっくに20時を越え、帰宅してから既に一時間以上も経過している。


(……ここから出たら直ぐ独尊丸を乾かして、ご飯やって、明日の脚本をもう一回おさらいして……)
しなければならない事はいくらでもある。
ミネラルウォーターのペットボトルを丁度一本飲み干し、お湯から勢いよく立ち上がる。
水の浮力がなくなった分、体はとても重く感じた。


(……眠い……)
自分の髪を乾かすのも、今からご飯を準備するのも苦痛だ。
独尊丸は猫缶とキャットフードでいいが、自分はもう夕食は水だけでいいかもしれない。


だが、部屋着用の黒い長袖Tシャツと黒いコットンパンツを身に付け、タオルを頭に巻いてバスルームから一歩外にでると、誰もいない筈なのに、とてもいい匂いが漂ってくる。


「……え、ミカド?……」

もしかしなくても、台所を使っているのは、あの幽霊しか考えられない。
だが幽霊が、まともに食べられる物を作れるのだろうか?

濡れた独尊丸をバスタオルに包み、ドライアーを片手に居間を覗けば、丁度カーペットに掃除機をかけている、首なし幽霊がいる。
しかも物凄く楽しげで、足を小刻みにぱたつかせ、リズムに乗っている。
きっと、あの子は失った筈の脳内で、歌でも口ずさんでいるっぽい。
微笑ましいが、ほのぼのと間抜けすぎて、本当に幽霊なんだろうかと、再び問い詰めたい気分になる。


「ねぇミカド。頑張ってくれるのはありがたいんだけど、ここには週に三回ハウスクリーニングが来るから、掃除は一切しなくていいよ」
《いいんです、やらせて下さい。拾って頂いたんですもの、幽さんのお役に立ちたいんです。あ、もうお風呂の栓抜いてきますね。洗濯物はありませんか?》》

薄いTシャツの上から、たどたどしくも指で文字を綴ってくる。
湯で温まった肌は敏感になっていて、とてもくすぐったい。

「いいよ。水は抜いてきたし、洗濯機も回してきたから」
《じゃあ、猫ちゃんの毛を乾かしますね。幽さんはご飯を食べてきてください。冷蔵庫の物を使って作っておきました。でも二品しかなくて申し訳ないんですけれど》

材料など、確かコンビニ弁当と少々の野菜、牛乳と卵と食パンにジャム、後は調味料ぐらいしか入ってなかった気がする。
それで申し訳ないなどと言われれば、どこまで謙虚な幽霊かと、逆に心配になってくる。


首を傾げているうちに、腕からタオルごと独尊丸とドライアーを奪われ、ミカドは踵を返してバスルームの方に行ってしまった。
幽霊だからひたひたと気配だけしかない無音の筈なのに、雰囲気だけはぱたぱたと軽やかな足音が今にも聞こえてきそうだ。

暫くしてドライアーを使う軽快な轟音と、独尊丸の『ミギャアアアアアアアア』という、抵抗する怒声が響いてきて、なんとなく微笑ましい。


とりあえず、くたびれる一つの仕事はミカドが肩代わりしてくれたので、遠慮なく言われた通りダイニングキッチンへと向った。

テーブルを覗けば、かつて単なる冷めたコンビニの牛丼弁当だったものが、玉ねぎとサラダ菜を炒めて増量された上、半熟卵でコーティングし直されており、熱々の出来立てとなってどんぶりの中で鎮座していた。

飲み物は麦茶が準備され、また緑のスープカップの中身は、見た目は具の無いシチューらしき白い液体が盛り付けられてある。

スプーンで掬って一口飲むと、ひんやりと冷たく、のど越しもいい。
これなら疲れて食欲がない時でも、ぺろりといけそうだ。

どんぶりも箸をつけると、こちらもショウガが効いていて驚くほど美味だ。
コンビニ弁当特有の、決まりきったワンパターンの甘辛い醤油の味付けに、そろそろ飽きていたからありがたいが、果たしてミカドはどうやって味見をしているのだろう?
作品名:ありえねぇ!! 2話目 作家名:みかる