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ありえねぇ!! 2話目

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「俺はこんなんだからさ、皆が怖がっちまう。だから、竜ヶ峰みたいのは、すっげぇ貴重だった。俺の癒しだった」
「ははは……。まぁあいつ、確かに貴方のデタラメな強さに憧れてたっすよ。帝人は純朴で純粋で、100人いればすっぽり埋没しちまうような平凡で存在感薄い男だけど、マジ気のいい奴で。だから話してて癒されるっての、俺も納得っす」
「竜ヶ峰が平凡? ありえねぇだろが」


ふわふわと浮いている生首を見る。
これのどこが存在感薄いって?

「十分インパクト絶大だろう」

そう呟いた途端、紀田の琥珀色の瞳が、まんまるに見開かれた。
「そう、そうなんです。帝人の本当の良さを理解できるなんて、結構鋭いですね、平和島さんは」

すぐににっこにっこと不気味な笑いに戻ったし、段々と彼の琥珀の目が再びナイフのように鋭くなる。

「で~も、言っておきますが、帝人は俺のですから。俺達の親友歴16年は伊達じゃない。どちらかが死ぬまで、嫌、死んだって俺達は親友です」

《えへへへ♪ 私、彼に物凄く熱烈に思われているんですね。とっても嬉しいし、幸せです♪》

顔を真っ赤にし、テレまくった竜ヶ峰の首が、ふよふよと手元に戻ってくる。
紀田にも何か牽制されているっぽいし、潮時だろう。

静雄はもう一度、ぽしっと紀田の頭をかき撫でた。

「そうか。竜ヶ峰は本当に良い親友を持ったよな。竜ヶ峰も早く元気になるといい。何か困った事があったら、俺を頼ってくれ。これでもお前より六つ年上の大人だ。力になれる事は結構あると思うぜ」
「はい、ありがとうございます」

こうして、紀田正臣という、存在感のある少年との初邂逅は終わった。
この時はまだ、彼のことは、単なる【竜ヶ峰帝人の親友】という認識しかなかった。


今後、臨也並みに殺したくなる存在になるとは。
この時の馬鹿な自分にもし拳を叩きこめれるのなら……と、後悔することになるのは、本当に数日後の話。



★☆★☆★



その頃、臨也は新宿の自宅兼事務所で、ふてくされてパソコンを覗いていた。

黒いファーコートはズタボロに汚れ、誰もが綺麗と認める顔も、沢山の傷があるというのに、そんな上司を無視し、助手の矢霧波江は黙々と仕事をしてやがる。



「ムカつく」

彼はその涼しげな横顔めがけ、ナイフを放った。
刃物は彼女の髪をほんの数本切り、ターンと小気味よい音を立て、壁に突き刺さる。

「仕事の邪魔よ」

それでも彼女はクールなままだ。
やっぱりムカつく。

「波江、帝人君が、ダラーズの創始者って黄巾賊に流したのってお前でしょ?  勝手なことしないで欲しいんだよねぇ~♪」
「あら、何のことかしら?」
「しらばっくれても調べはついてる。今頃黄巾賊の溜まり場ではさ、ダラーズのヘッドを血祭りにあげたって、新たな英雄きどりの馬鹿が、【新将軍】の名乗りを上げてるんだろうね」

実力も無いくせに、滑稽な程威張りたがる、実の無い男…それが法螺田だ。
張りぼての虎なんて、自分がちょいと駒に使っても、直ぐに壊れてしまうだろう。


「帝人君はさ、将来もずっと楽しく遊べる俺の大事な玩具だったのに。丸二年見守って、手塩にかけて育ててきたんだよ。なのにお前の密告のせいで、くだらない男に勝手に壊されて、俺に侘びの一つもないの?」
「あるわけないでしょ」

もう一本、ナイフを波江の首すれすれに投げつけるが、当たらないと判っているから、やはり彼女は動じない。
良い度胸だ。


「俺、今回の件、マジで怒っているんだよね。いい波江? 次はないよ。もしやったら、……そうだな、矢霧誠司がこの世からさくっと消えると思え」
「判ったわ!!」


今度は即答だった。
悲痛さまで篭っていた返答に満足した臨也は、仕事机から離れてソファーへと移動した。

テーブルの上。
かつて、チェスの黒キングが二本と、白のクイーンが一本あった盤上では、現在何もなくなっている。


罪歌を所持していた園原杏里は死んだ。
紀田正臣は永遠に黄巾賊を離れ、竜ヶ峰帝人も本日より意識不明の重体だ。
病院にハッキングを仕掛け、電子カルテを熟読したが、脳の損傷が激しく、このまま永遠に目覚めない可能性すらある。


どうしてこうも、思い通りに事が運ばない?
駒がどんどん抜け落ちて、臨也の手元に残ったのは、単なる歩兵ばかりである。


「ほんと、み~んなみ~んな、忌々しい」


ソファーに座れば、振動でクッションの間に挟まれている瓶づめなセルティの首がゆらゆら揺れる。
その横に並んだ、同種の入れ物に詰められた、園原杏里の首も同様だ。


体内に宿る【罪歌】のせいで、死んでいるのに腐らない。
それどころか赤い目をうっすらとあけ、水の中で延々と【愛シテル】という言葉を繰り返し囁いている。

「本当に不気味な首だよ」

腕が無いから、もう二度と刃は振るえない。
かといって、【罪歌】は杏里の体からも出られないので、どんなに人を愛していても、切ることもできない。


この少女も、物凄い凄い執念だ。
己の身を犠牲にし、鞘になって妖刀を封じるなんて。

こんな自己犠牲は、美しすぎて反吐がでる。



「つまらないつまらないつまらない。君にはすんごく期待してたのに、なんで静ちゃんを始末してくれなかったのさ。帝人君と紀田君の仲もばらっばらにして、ダラーズと黄巾賊とブルースクエアの残党とのガチでの潰し合いする筈だったのに、俺の予定は大崩だ!!」

「貴方ほんと最低ね。まあ愚痴が終わったら、さっさと溜まった仕事を片付けて」
「うるさい。俺は雇い主だぞ。あーもう、どうしようこれ、邪魔、メンドクサイ!! マジむかつく、腹立つ、つーか死ね!!」


がつんと杏里の瓶を裏拳で殴れば、水中花のように、髪がゆらゆら揺れる。


「そういや、粟楠会の赤林のおっちゃん、杏里を血眼で捜してたっけ。ああもう腹いせに、ネブラに高く売り払ってから、情報リークしてやろうか。おっちゃん、泣きながらポン刀持って特攻かけるかもね。いっそあいつも玉砕しちゃえ?! えいっ」



臨也は空っぽになってしまった盤上に、将棋とチェスの駒を投げ入れると、ライターのオイルをばら撒き、火を放った。

それを冷ややかに波江が見る。

「後片付けはきちんとやってね」
「お前がな」
「私は後一分で勤務時間が終わるのよ」
「じゃあ残業して」
「お断りよ」
「ちぇ」



★☆★☆★




「なぁ帝人ぉ。今日俺な、あの平和島静雄とタメ口でしゃべったんだぜぇ~。多分もう絶対できねぇだろうけど。すげぇだろ? なぁ♪」

白いベットに横たわる少年は、非日常をとても愛していた。
起きていたらきっと、青い瞳をキラキラさせて、どんな話をしたのか聞きたいと強請っただろう。
目をそれこそハートマークに変えて。


きっと、はしゃぎまくった筈。
そう、起きていたのなら。


今晩は集中治療室で様子見だけど、容態はもう安定している。
明日、個室の掃除が済み次第、部屋を移るらしい。

さっき、帝人の実家から連絡があった。
何かあったら使えと、既に正臣の口座に300万が振り込まれている。
作品名:ありえねぇ!! 2話目 作家名:みかる