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【APH】本気出して菊菊について考えてみた

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彼はどこかぼんやりとそういいました。そうかもしれないと私も思ったけれどそれに答える言葉を口にしないでいた。言えば彼はにやりと笑うでしょうがそれはあまり美しい笑みではないしせっかく美しい花を見にまだ肌寒さの残る外に出ているのに談話の花ばかり咲かせてもつまらないからです。というのも、彼とは深く長い付き合いをしていてなにかと私をひがんだような言い草をしたり酷く突き放す言動をすることを良く知っていましたし、そうなればお互いむきになって言い争うからです。だからといって私が彼の手を離せばあっけなく私達は別のものになるということもなんとなしに理解していました。私達二人の争いは常にどっちらが生き残るかのかなり切迫したものだのに、同じ立場のものとして語ることができるのも二人しかいませんでした。海を挟んだ向こうの耀さんも勇洙さんもあまりにも遠くすぐに荒れる海流と木造の頼りない船しか持っていない私達が二人いるというのはそういう状況が生み出した苦肉の策なのでしょう。
「俺は花になりたいよ。桜の花だ。すぐに散ってしまうものの何度も咲いて俺がいたということを刻み付けてみたい」
まるで花に酔ったうわごとを言うかのように彼はそういいました。その目つきにも呟き方にも私は背筋に冷たいものがはしるのを感じました。
「あの、私は、」
彼がいったい何を感じ何を思い、正確にはどのような立場の人なのか私には良く分りません。分らないけれど彼とこの話を引きずるのもよくないと私は思いました。彼は私よりも多くを知っているのでしょう。私よりももっと苦しい場面に遭遇したのでしょう。なにせかれはいつも窮地に立たされる側にいて、余裕の微笑を浮かべながら『さあかかってこい』と剣を構えるような人です。生き残るのが私と確信してそれでも真っ向からやりあう人ですそんなひとが平穏無事の生活ができるわけがありません。
世の花よ、望月のような充足した栄華よと贅の限りを尽くし高くそびえる塔に憧れる人がいる一方で、彼岸にこそ休息の地を見出し衰退を嘆き絶景を静寂で彩り横に広がる堂を求めるひとがいるのは私と彼のそういう二面性かもしれません。私自身はその狭間を行ったりきたりしているけれど彼はいずれくるものとしての静寂をいままさに目を凝らして暴き身をゆだねようとしている気がします。だからこそ温かくなりだしたころに咲き満開と同時に散り始めるあの花に美を感じるのかもしれません。私は桜という花は確かに美しいとは思いますが彼がほめるほどの魅力を感じないのが正直なところです。あの狂気的な言葉を忘れたくて私はこんな話題を持ち出した。
「私、先日名前を付けられました。例え私自身のことであっても私が個人として動くこともある以上公の名とそれ以外の名もあったほうが都合がいいといわれて」
「へぇ」
甘茶色の瞳にふと春の穏やかな日差しが写りこみ、
優しく、そうどこまでも優しく光りました。
「どんな名前だ」
見た目は背格好だって変わらないはずなのにやけに大人びた笑い方をした彼は私のもっとも信頼の置ける親友です。
「それが花の名前なんです。菊、と」
「ほぉ」
「どういうキクを思ってそうなったのかは知らないのですが、年を通して見かけて馴染みもある花と同じというのは照れくさいですが」
「奥方のようだ」
名前をもらったと言うことにおどろいたのか目を丸くしていた彼がぽつりとこぼした言葉がよりにもよってそれでした。
「言うと思いました」
私は大げさなまでに肩を落としため息をつきます。期待したわけではありませんがもう少し気の聴いたた言葉の一つぐらいあると思ってしまったのも事実です。
「あ、いや、でもいいと思うぞ!菊。いい名前だ」
「どんな風に?」
「えぇ?あー・・・とりあえず俺も良く知ってるし」
「そうでしょうね」
「見立ても美しいが、薬にもなるし、いざというときには葉を食べることも」
「実用的ということですね」
「いや、いや!違うぞ!俺はそんな打算的な目でおまえを見たりしていない!断じて!」
私が少し冷めた目をしながら言葉を重ねると彼はわたわたと取り乱しながら何かしら言い訳をしはじめ、最初は白々しいほど明るい声で話すだけだったのがついには腰を半ば浮かすようになっていて、私はついに我慢できずに笑い出して笑いながら『必死ですね』と彼を挑発しても、彼はあさっての方を向いてすとんと腰を下ろすばかりです。うずくまって膝を抱えた彼は小さな声で『おまえなんか嫌いだ』といいながら貧乏ゆすりまで始めました。
「それで、あの」
やりすぎたなっと思いながら彼に声をかけるといつも勘のさえる彼はふと顔を起こして真摯に私を見つめ「俺にはない」と。
「ない?」
「ない」
どうして、と言うのも憚られて私が繰り返すと彼も断言します。
「大昔にもらったことがあるはずなんだが俺も忘れたし覚えている人間なんていない。そもそも俺がそういうものと判るやつだっているのかどうか分らない。実質的に分離してる状態だと俺がついた側には俺がそういうものとして見えるらしいが普段はさっぱりだからな」
文字通り名乗る名が無いだ、と彼は肩をすくめますが私は酷い失言をしたような気持ちで一杯になりました。何かいわねばと焦る一方で何を言っても彼にとって虚しい後付けではないかとかける言葉も分らなくなっているとやはり彼は皮肉っぽい余裕の笑みを浮かべて助け舟を出しました。
「なぁ、おまえが決めてくれよ。俺の名前」
「え」
「俺よりも学はあるだろう。それに趣味もいい。ずっと俺のことをそうっと分るのはおまえだけだし、第一俺の名前を呼ぼうなんて考えるのはおまえ以外にまずありえないからな」
そこまでを一息にいうと彼はまた私をじっと見てきた。さぁ、やれるものなら早くやってみろ、と構えているくせに甘茶色の瞳には確かな期待とわずかばかり不安の色が写っていました。
「なら、六花でどうでしょう」
「六花?」
「雪のことです」
「雪?」
「険しい季節にふっと現れて灰色の空へ昇るように静かに落ちてきて大地を白く塗り替えてゆく、季節が過ぎれば解けて小川になって私達の生活を助けてくれる。似ていると思います」
「いつの間にか忍び寄り、世界にに死の時代を告げて異常な時代を塗りつけ新しい考えを残して去っていくわけか。なるほど」
「そうじゃあるません」
「ああ。俺はおまえの言ったことを歪んで解釈している。でも好きだな。わりと。おまえが思っている生まれ変わりの雪も俺が思った大きな変化とか停滞の雪も死を埋めてしまう雪も」
ぼんやり、というよりもうっとりとした顔で彼はそういってつい先日までこのあたりにも薄く振っていただろうその白綿を思い描いているようでした。
「菊の別名を知っているか」
「いいえ」
「草の王、花の弟らしい」
「そうなんですか?」
・・・嘘だ。本当は知っていた。
「それから雪の別名を今思い出したんだ」
「なんと言いますか」
それも知っている。
「香ら不の花、不香花だそうだ」
「そうなんですね」
「花ではないけれど花のふりをして花も草も終わってから何もない場所から花弁だけを振りまくんだ」
全部知っているんです。全部知っていて私は彼にその名前を与えようとしたんです。軽蔑しますか?