わがままフェアリーラブ!
ふわふわとした幸せな日々。
彼を好きになってから、人間観察は結構どうでもよくなってしまっていて、池袋の街をかきまわすこともしていなかった。
なかなか俺は人から恨まれている人生を送っているし、ちょーっと危ないお兄さんやおじさんとも知り合いだけど、その辺はビジネスとして割り切って踏み込み過ぎないようにすれば、案外こんな糞みたいな仕事をしていても無事に生活できるものだ。
1つ不満があるとすれば、帝人君が俺の家に住んでくれないことぐらいだったけど、それでも高校を卒業したら一緒に住もうと言ってオッケーをもらっている。
安全面を考えるなら俺の家に住んでもらいたいけど(あのボロアパートは、ない)あの子がまだ1人暮らしを楽しみたいというなら、俺はそれに否を返すことなんてできない(べた惚れだからだ)
そう、俺は帝人君の望みをなんだって叶えてあげたいし、叶えることによって嬉しそうに笑う姿が好きだった。
究極に言えば、俺がその顔を見たいだけで、帝人君の望みを叶えること自体が俺の望みだったわけではないんだけど。
とにかく、俺は帝人君のわがままを聞くのが1つの趣味だったんだ。
彼は真面目な性格だったから、大したわがままは言ってくれなかった。
せいぜい「肉・・牛肉食べたい・・・タンパク質・・」とか「これから冬ですね・・コートって高いなぁ・・」とか「臨也さん!泡風呂ってどんなのですか!?」とかだった。
あ、最後のお願いは当然叶えたけど、きゃあきゃあとはしゃぐ帝人君を俺は脱衣所のガラス戸の向こう側から眺めるしかできなかった。
ヘタレなわけじゃない。紳士なだけだ。
俺はまっとうな仕事をしてない代わりに稼ぎはある。
松坂牛だろうがコートだろうがなんだって買ってあげられる。その程度で痛む懐ではない。
でもそんな可愛いわがままを叶えてやるたびに、嬉しいと笑って、時々額とか頬にキスをしてくれる帝人君が大好きなわけで。
(この顔が見れるなら、俺は幸せだ・・)
なんて思っていた。
が、いつからだろう、ある日を境に、帝人君のわがままがどうもおかしな感じになっていった。
1日目
「臨也さん、バラ100本ってどんな感じなんでしょうか?見てみたいなぁ・・・」
「すぐ買ってくるよ!」
2日目
「あの・・ぺ、ペアリング、とか」
「っす、すぐ買ってくるから!!」
3日目
「今日は、1日一緒にいてほしい、です」
「(ぐ・・っは、外せない依頼人が・・・っ!)きょ、今日はちょっと・・・」
「ダメ、なんですか・・・?いざやさん・・・」
「(あぁぁぁぁぁぁっ!!!)み、帝人君の傍にいるよ!もちろんじゃないか!!」
「臨也さん・・っ!」
この辺で俺は息切れし始めていた。
花や指輪をねだるなんて可愛いなぁと思っていたけれど、帝人君が実用的じゃないものを欲しがるのは珍しいなぁとは考えていた。
なにしろ泡風呂とか、純粋に見てみたいものならともかく、他は食べたいとか使いたいとか現実的なものばかりを、しかもねだるというよりは自然と欲しいということを無意識に零してしまった、という感じで言われていたのだ。
だけどこのころから、直接欲しいという言葉とともにねだられるようになった。
当然恋人に望まれて嬉しくないわけがない。
俺はなんだって与えたし、それによって俺が不利益をこうむることもあったが、まぁそれも恋人のためなんだからと目をつぶった。
作品名:わがままフェアリーラブ! 作家名:ジグ