わがままフェアリーラブ!
「臨也さん、僕見たいものがあるんですけど」
「・・・何かな?」
務めて穏やかな笑顔を向けた俺に、帝人君はにっこりと輝かんばかりの笑顔で
「僕、臨也さんと静雄さんが仲良くしてるところが見たいです!」
(え、無理)
心の中で即答した俺は悪くない。
頭が大絶賛混乱中だ。
(仲良く?仲良くって何?どんなの?)
「えっと、僕と正臣みたいな感じで、肩組んで笑って買い食いするみたいな・・・」
「・・・ぇ」
「くだらないギャグを臨也さんが言って、静雄さんがツッコんでくれたら完璧なんですけど」
「・・・・・」
「ダメですか?」
ダメに決まってる。
というかシズちゃんのツッコミなんて、完全な死亡フラグだ。
まさか帝人君は俺に死ねと言っているのか。まさか。
一瞬でいろんなことを考えたけれど、俺の体は案外心に正直だったようで、無意識に
「え、いや、無理」
と告げていた。
その時の俺の衝撃はものすごいものだった。たとえるなら富士山の噴火、いやビックバンか。
俺は今まで帝人君に否の返事を返したことはなかった。
すべて、あらゆるところで、完全なイエスマンだった。
欲しいならあげる。
ないなら買う。
見たいなら作る。
折原臨也ともあろうものが、と思わないでもなかったが、帝人君の笑顔とキスが貰えるならば安いものだと頑張った。
そう、頑張ったんだよ!
俺は精一杯やったはずだ、それこそ褒められてもいいはずだ!
だからこれは俺が初めて返した「ダメ」だったんだ。
そして俺は現在、
(どどどどうしよう!?どっ、え、どうする!?むりむりむりこの状況俺にはどうしたらいいかわからない助けて誰か助けておかぁさあぁぁんっ!!)
ぱくぱくと俺の体のうち、口だけが動いている。
声も出ないまま一心不乱に帝人君を見つめる俺の前で、その当事者たる帝人君は
(な、泣いていらっしゃるーーーっ!!!)
心の激震だった。
俺は帝人君が泣いているところなんて見たことなかった。
気丈な子だ。何があろうと、そう、何があろうと笑っている子だった。
唯一ダラーズのことで心折られた時ぐらいだろうか、それでも俺は直に帝人君が泣いたところをみたことはない。
初めて見るその涙に、俺は全力で動揺した。
動揺しまくった。
結果、
「う・・・うわぁぁぁぁあーーっ!」
絶叫を上げて、逃げてしまったんだ。
何回も言おう、折原臨也ともあろうものが。
恋人の初めて見る涙に動揺して、逃げ出した。
こんなのが世間に漏れでもしてみろ、俺はもう情報屋としてやっていけない。
だけど、この時の俺には泣かせてしまったという罪悪感、そしてフラれるんじゃないかという恐慌、それでいっぱいいっぱいだった。
作品名:わがままフェアリーラブ! 作家名:ジグ