わがままフェアリーラブ!
ぜーはーぜーはーと荒い息を吐きながら、エントランスのインターフォンを押す。
カメラがついてるから、誰が訪ねてきたかはすぐわかる。
無音のまま、カチリとロックが外れる音だけが響いた。
すぐさまホールに駆け込んでエレベーターで玄関までたどり着く。
ドアノブを回したら抵抗なくするりとドアは開いて、俺が逃げ出したそのままの状態で出迎えらえた。
「・・・帝人君」
リビングのソファの上、2人で座っても軋みすらしない新しいソファで、帝人君が膝を抱えている。
それでなくても小さい体をさらに小さく縮めて、ぐすぐすと鼻をならしている。
「帝人君」
体育座りをしている前にしゃがんで、可愛い膝小僧に顔を埋めてしまっている帝人君を下から眺める。
耳まで真っ赤になって、腕と足の間から見える頬は可哀想なぐらいに赤く涙で濡れている。
(俺が飛び出してからずっと泣いてたのかな・・)
可哀想だと思うのと同時に、うれしくもなる。
俺の言動一つでここまでこの愛しい子が泣いたり笑ったりしてくれることが、俺は幸せだ。
ぎゅっと握りこまれている白く柔らかな手を取ると、そっと指先に口づけた。
力を入れすぎていたせいで爪痕が残ってしまっている手のひらにも、その爪の先にも唇をおとして、くすんと可愛らしく鼻をすすった帝人君の額にも伸び上がってキスをする。
ごめんねと大好きの代わりに。
「帝人君、顔あげて」
ちぅと額に何度も口づけて、手を俺の首に回してやる。
いやいやと顔を埋めたまま首を振られてしまうけど、何度も大丈夫だよとキスを額に、頬に、耳におとしていくと、ぎゅうっと服の背中を掴まれて、ぽすんと抱き着いてきてくれた。
俺の胸でも抱き込めてしまう小さな体。
ぐりぐりと首と胸の間に顔を擦られて、くすぐったさに笑ってしまう。
「ふふ、帝人君は甘えたさんだなー可愛いなー可愛いなぁ」
「・・・かわいく、ない、です」
ぼそぼそと呟かれても、これだけ密着してたらはっきりと聞こえる可愛い声。
泣いてたせいで少し嗄れてるから、あとで蜂蜜を垂らした紅茶を淹れてあげよう。
(さて、まずは誤解を解かないと)
「可愛いよ。俺は君が一番可愛い。可愛くて大好き」
「・・もっと、かわいい、ひと、いっぱいいますよ」
「俺は帝人君が一番可愛いの。君がだぁいすきなの。知ってた?」
「・・・知らない、ですっ。だって、いざやさん・・・っ、いざやさん」
ぐすぐす泣いて、でも俺の首にしがみつく手はどんどん強くなっていってる。
離れてやるもんかとばかりに足まで腰に絡んできて、なんていうかもう俺
(幸せで死ぬかも・・・)
きっと恍惚にとろけているんだろうなぁ俺の顔。なんて思ってる間にも、帝人君がぽそぽそと原因を囁いてくれる。
それはとてもささやかなことで・・・あと俺の失態でもあるわけで。
「この前、いざやさん、女のひと、と、腕組んで・・た、から、僕のこと、も、いらないのかな・・って・・・」
「・・・おんな」
(一体いつ女と腕なんか組んだっけ・・・?っていうか腕組むような女・・?いやいないけどさ、俺にくっついていいのは帝人君だけ・・・って、あ、)
すごく頑張って、幸せな帝人君との日々の間に出てくるその他の人間のことを思い返せば、確かに最近一度だけあったのだ。
何を誤解したかは知らないけど、俺を籠絡しようとでもしたのか、やたら絡んでくる女がいたことを。
欲しい情報を持ってるやつだったから、少しだけ触れてくるのを許した気はするけど、情報を手に入れたらすぐに離れた、はず・・・だけどつまり
(そんな一瞬をよりにもよって最愛の恋人に見られてたわけか・・・っ!)
作品名:わがままフェアリーラブ! 作家名:ジグ