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ありえねぇ!! 3話目 前編

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「兎に角、まずレンタルしたDVDだけでも返しな」
「……どこに埋まってるか、判らなくて、へへへ……」
「おいおい勘弁しろや、兄ちゃん。そんな言い訳通用すると思う? だったら少し、痛い目に合ったら思い出せるかな?」

トムの口調から見て、そろそろ出番らしい。
吸っていたタバコを足元に落とし、靴裏で丁寧に火を消す。
だが、左手に持っていた帝人の頭が、何故かぴょこぴょこ跳ねている。


「竜ヶ峰、どうした?」
《ちょっと思ったんですけど、その人ネットで商売をしているのなら、売上金とかはインターネットバンクか何かで決済しているって事ですよね?》
「まあ、普通そうだよな」
《じゃあ、簡単ですね♪ 私に任せてください♪》

「おーい静雄。ちょっと……、おお?」


驚くトムの前を、帝人の首がふよふよと横切り、すい〜っと、延滞客の家の中に入っていく。


ひょいっと室内を覗き込めば、帝人は鼻歌交じりにボールペンを口に咥え、ぽちっと不払い客のディスクトップ型のパソコンを起動させた。
そして画面が明るくなると、ぽちぽちとカーソルを押し、何やら細々したのを入力しだす。
すると、急に画面が目まぐるしくなり、窓が沢山開きだした。


自分やトムはまだ良かった。なんせ、帝人の首幽霊が見えているのだから。
可哀想なのは延滞客だろう。
誰も居ない筈の部屋で、いきなり自分のパソコンが暴走しだしたのを見て、目を白黒させて固まっている。

《トムさん、回収金額はおいくらですか?》
「15万8千円」
《はーい、じゃあウチの会社の口座に振り込んでおきますね。その人、ゆうちょ銀行に二十万お金ありましたから、即日入金OKでした♪》

どうやらヤフオクのショップ情報から、男が使用しているネットバンクの口座を割り出したようだ。
それに、静雄には判らないが、過去の履歴とパソコンの内部記録から暗証番号も盗み、あっさりと金を回収してしまったらしい。

気持ちよく作業をやりとげた帝人は、パソコンの電源を消し、またふわふわと浮いて、手元に戻ってくる。

《後はレンタルDVDの回収ですね。でも私、それはちょっとお手伝いできそうにないのですが》
「ああ、いいいい。お前はここで休んでろ」

まだ未成年の帝人に、成人向けのエロDVDなんて刺激が強すぎる。
例えパッケージだけでも、見せたくない。
それに、力仕事なら、自分の出番だし。

「さぁて、片っ端から【ゴミ】を捨ててきゃ、いつかは見つかるだろう? なぁ?」

サングラスを外してポケットに収める。
そして、黒い手袋を嵌めたまま、ぱきぱきと指を鳴らす。
自分の真後ろで、帝人の目が期待にキラッキラと輝きだしたのが判っているから、張り切り度も倍増だ。


「うおぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおらぁぁぁぁああああああああああ!!」


その日、男の部屋に山と詰まれていた違法コピーDVDが、割れた窓を通じて池袋の空に全て舞った。



★☆★☆★



そんな感じで、今日の帝人は兎に角大活躍だったのだ。


パソコンを持っている奴も、携帯しか持たない奴も、『金は無い』と喚く輩から、無理やり腕づくの回収を迫るまでもなく、静雄やトムが腕をぎりぎりと捻っている間に、生首が明るくぽちぽちと勝手にクレジットやネットで決済してしまう。


現金を運ばなくていいから手ぶらだし、何より静雄も暴力を振るわなくて済む。
しかも勝手にやっているのは幽霊なのだから、静雄達に罪もない。
こんな楽な取立て、ありえねぇ。


「帝人ちゃんって、機械関係に強いね〜♪ でもお兄さんは、君の将来が心配だよ」
《ほへ?》
「かー、今日の分の回収ノルマ、終わっっちまったべ〜」

朝の騒動が嘘みたいに、今のトムは上機嫌だった。


《私、お役にたてました?》
「ああ、もう大活躍♪ もし食べられるんだったら、お菓子でもケーキでも、何でも奢っちゃった位♪」
《私もそのお気持ちが、とっても嬉しいです♪》

ぽけぽけとした表情で、静雄の腕に抱っこされているが、三人のうち今日一番誰が悪辣だったかというと、断然帝人の筈だ。

「でもミカドちゃん、本当に記憶ないの?」
こくこくと頷く。
《日常生活の類は支障なく思い出せるみたいですが、人間関係がさっぱり。過去も真っ白なんです》


「嫌、日常生活の類って、ハッカーもどきは一般人に無理だべ」
「すげぇなお前」


帝人の新たな特技に驚きつつ、買った携帯を見て時間を確認すれば、まだ二時ちょっと過ぎだ。
早々と、静雄の今日の仕事が終わってしまった。

後は微々たる書類作業があるが、それらは全て上司トムの仕事だったりする。

「トムさん、俺、今日後どうしましょう?」
「あー、もう終わりでいいんじゃね? 社長には俺から言っておくから」
「うすっ、ありがとうございます」
「ただ、ちょっと早すぎるしさ、昼飯をどっかで食ってから解散っつー事で」
「……あー俺、今日携帯を新しく買ったし、昨日財布を落としちまったので、節約を兼ねてカップ麺にしようかなと……」


給料日まで後三日。
高校を卒業し、就職してから今日まで、彼は両親の助言どおり、収入の半分をまず貯金し、残りのお金で生活するよう心がけていた。
今月使っていいと決めた分は、残金一万円ちょっとしかない。


だが、突然彼の背中はどかんと頭突きを貰い、振り向けば涙目になった帝人がいた。


《静雄さん、せめて卵と葱と乾燥ワカメを追加してください!! 後、果物とヨーグルトとかも!!》
「あらら、帝人ちゃん急にどうしたの?」
《だってトムさん聞いてください。静雄さんってば、昨晩のお食事、カップ麺のみだったんですよ〜!! 朝は結局抜きだったし、このままじゃ栄養が偏っちゃうじゃないですか!?》

「ああ、そりゃデフォルトだべ」
《え?》
「こいつ、高校の時から基本食事はカップ麺かコンビニの弁当か学食のパン、飽きたらマックか吉野家、で、リッチな時は外食、後サイモンに捕まった時は露西亜寿司って決まっているんだ」

ぎぎぎぎぎ……と、音を立てるように、帝人の首がこちらを向き、寒々しい笑みを見せた。

《静雄さん、ちなみに昨日のお昼は?》
「……シーフードのカップ麺……」
《では、その前の朝ごはんは?》
「……牛乳とシリアル、ココア味……か?」
《その前の晩は?》
「……マック……、だったかな? 」


《食事舐めてんですかあんた!! 信じられない!!》
「何だと?」

年上を敬わない口調にイラッときたが、それも帝人の顔を見るまでだ。
彼の大きな青い目から、勢い良くぶわっと涙が噴出している。

《そんな食生活、将来ぽっくりショック死する予備軍決定じゃないですか!! 静雄さん、おしゃれや身だしなみをケチったって、食事は大事なんです。死にたいんですか? 三十歳で心臓麻痺おこしたいんですか? 自炊しましょう、お家でご飯作りましょう、野菜もきちんとバランスよく取りましょう!!》

説教臭く怒鳴られれば、唯でさえ沸点低い静雄だ。イラッともくる。
だが、目の前でぷるぷると顔を赤くして叫んでいるのは、既にこれ以上無いほど悲惨な目に合っている、記憶喪失の生首幽霊である。