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ありえねぇ!! 3話目 前編

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そんな哀れな存在が、チワワのような大きな目から、勢い良く涙を零した日には。
静雄の胸も、自然ちくちくと痛み出す。

「竜ヶ峰、落ち着け、な?」
《静雄さん……、が、若死に…しちゃったら……、私、やですぅぅぅぅううううううう!!》


声を上げておいおいと泣きだす。
帝人が案外と泣き虫なのは、昨日で判っていたが、こんなにちょくちょくベソをかかれるのは本当に困る。
勘弁してくれと空を仰ぎ、続いて上司へ目で助けを求めると、彼は逆に和んだ面持ちで、静雄の肩をぽしぽしと叩いてきた。

「なぁ静雄、ミカドちゃんに妥協してやれや。家族でもない他人の体を心配して怒ってくれる奴がいるなんてさ、すっげー有り難い事なんだぞ」
「……ですが俺、飯なんて作った事ねーし……」
《慣れてしまえば簡単です!!》


しゃくりあげながらも、帝人まで参戦してきやがった。


《せめてインスタントラーメンを食べる時は、小口切りした葱と、卵、後乾燥ワカメも沢山入れてからお湯を注いでください。後、作るのが面倒ならお惣菜とか売ってますから、ちゃんとしたものを買ってください!!》

「あー、今日は帝人ちゃんのおかげで時間あるし、食材の買出しにSEIYU寄ってくか?」
《はい♪》
「トムさん」
「まあ頑張るべ。今日の費用は俺が奢ってやる。じゃ行くべ、ミカドちゃん♪」
《はい♪》

泣いていたカラスがもう笑った。
帝人はぽすんと静雄の腕の中に納まると、真っ赤になってしまった目で、にっこりと微笑んだ。
トムは完全にまき沿いを喰らったのに、そんな二人に生暖かな目を向けてくれている。


しかし、自分がスーパーマーケットで、菓子やジュース、または酒以外を購入する日が来るとは。
カートを押している間、帝人は嬉しそうに、鮮度の高い野菜の選び方をレクチャーしてくれたが、正直言って興味がないから、何も頭に入らなかった。


そして、会社の休憩室で、買い置きのジャンボカップ麺に、買って来たばかりの生卵二つと乾燥ワカメを大量に入れお湯を注いだら、見事五倍以上に膨張したワカメでパンパンに膨らみ、大変な事になった。

帝人やトムに笑われつつ、苦笑で啜った【お化けワカメカップ麺】は、ちょっと塩辛くなったが、不思議なことに、今まで食べたどのインスタント食品より美味だったが。



★☆★☆★



その日の午後、セルティは、静雄からのメールに首を傾げていた。


『今晩の夕飯は俺が作るから、そっちの台所を使わせてくれ。後、米だけ炊いておいて欲しい』


彼は過去、バーテンの経験がある。
たまに新羅宅で飲む時、新羅と自分が飲む用に、シェーカーを振ってカクテルを作る事もあったが、食事とは。
セルティは小首を傾げてPDAに入力し、ノートパソコンを使い、ネットで調べ物をしている恋人の眼前に突きつけてみた。


『なぁ新羅、今日静雄がお前の夕飯を作ってくれるそうだが』


「えええええええ!! どういった心境の変化? ありえない!! だって、高校の時再会してから八年経つど、彼が自炊しているなんて話、今まで一度だって聞いた事ないし!?」
ひとしきり叫んだ後、段々と彼の顔が青ざめる。


「……ど、どうしようセルティ、私、昨日の仕返しに毒殺されるのかなぁ? 逃げたほうがいいかも……」
『待て待て待て!! 新羅、落ち着け!! 静雄なりの感謝の気持ちかもしれない。ほら、彼は結構義理堅いし……、早まるな!!』

だが、新羅はふふふふふふ……と、不気味な唸るような笑い声を発しだす。

「そうだねぇ、静雄は執念深いしぃ〜……。ああああ、セルティ、私はもし死んでも、ミカド君と同じように幽霊になって、君に永遠に取り憑く事を、今ここに宣言するから、楽しみにしてて……」
『するな馬鹿者!! 大体、静雄が毒殺なんてまだるっこしい真似なんかするものか。彼なら殺る時は一思いに撲殺だろ!!』
「ああ〜ヘルメットがいるねぇ。君の猫耳は可愛いから壊したくない。なら父さんのガスマスクの予備を……、嫌だ、変質者がうつるよ〜……。どうしようかな〜、兜って、防護の役目あるかな〜……」
『おーい、新羅。現実に帰って来〜い!!』


闇医者は物置に飛び込むと、埃に塗(まみ)れながら、少年時代に5月5日に飾っていた、鎧兜人形を引っ張り出し、頭に乗せた。
しかし、子供用サイズなので、セルティの目から見ても、小さすぎて駄目駄目だ。
『もし静雄が本当に激怒していたら、私がバイクに乗せて逃がしてやるから、とにかく落ち着け!!』
「セルティ、愛してるよぉぉぉぉぉ♪」
『私は、お前の心配は、杞憂に終わると思うが』


意見は真っ向から対立したまま、16時ジャスト、呼び鈴が鳴り響いた。


二人は全身に緊張を漲らせ、玄関に赴き、どきどき高鳴る心臓の音を聞きつつ、運命の扉を開く。
出迎えた静雄は、最初から額に青筋を浮かべていた。
サングラスの中の瞳はギラギラと吊り上り、タバコを咥えたまま、非常に大きな買い物袋を一つ、腕にぶら下げている。
全然、二人分の食材という感じではない。


「……あ〜、私の死亡フラグ、立ってる〜……」
『落ち着け、新羅!!』
「セルティ、ずっと一緒に居たかったけれど、……やっぱり今日が私の命日かもしれない」
『あ、安心しろ新羅、私がずっと静雄を見張っているから!!』


《あの〜、セルティさん。昨日は拾ってくださって、本当にありがとうございました。気が動転してて、お礼が遅くなりましてごめんなさい》


ほえほえとした声が聞こえ見下ろせば、静雄の左手に、帝人の首が後頭部からしっかり掴まれており、そこでぺこぺこと頭を下げている。


《それに今日も私の我儘で、台所をお借りする事になって、本当に申し訳ありません》
「わりぃなセルティ、俺の家には包丁しかねぇし」
《静雄さん♪ 後、鍋とフライパンと炊飯器があれば、一通り何でも作れますよ♪》
「三日後なら買ってもいい」
《はい♪ 楽しみにしてますね♪》
「まだ決定じゃなねーぞ。今日、料理が俺の性に合わなかったら、保留だからな」
《大丈夫ですよ♪ 簡単に作れて美味しいものからチャレンジしましょうね♪》


静雄はむっすーとしたまま、のっしのっしと台所へ向う。
どうやら、彼が料理を始めようとした切っ掛けは、帝人が原因のようだ。


「……セルティ、ミカド君? 彼は何処にいるの?……」
『ああ。新羅には見えないのか?』
「声も聞こえてないよ。静雄と会話していたので推測できたけど。はぁ、残念だな。首幽霊、是非解剖してみたかったのに……ふごぉ、ぐへっ!!」

セルティは、マッドサイエンティストな恋人の腹に、エルボーと回し蹴りを叩き込むと、急ぎ足でキッチンへと向った。



★☆★☆★


『それじゃぁ、この食材は全部、上司からの贈り物って訳なのか?』
「ああ、竜ヶ峰が今日頑張って仕事を手伝ったご褒美だそうだ」
(絶対トムさんは面白がっていただろうがな!!)


静雄はタバコを消すと、買い物袋の中から、真っ赤なエプロンを引っ張り出した。
1000円のタグ付きの真新しいこれも、トムからの贈り物だ。