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紅の識者

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「俺は聞いてねぇ!お前が副隊長なんて絶対認めねぇから、さっさと違う隊に行っちまえ!」
「絶対ヤダ」
「ッ〜〜!」
ツーンと首を横に反らした浦原に、一護の堪忍袋の緒は切れる寸前だった。
体はぷるぷる振るえ、両手は握りこぶしを作り、顔は俯いているが、顔が怒っていることは、誰にでも想像できた。
隊員達は要らぬとばっちりを被らないよう、そっと後ずさり部屋から避難して行く。
隊長としての一護は、頼り甲斐があり、気さくで平隊員にも分け隔てない物腰が好感を呼んでいる。
何より外見が性別を問わず、人気が高かった。本人の前で言うと怒られるのだが、まだ少年の面立ちを残している顔は、可愛いと表現して差し障り無い。
橙色の髪とブラウンの瞳も特徴的で、一護の整った顔立ちを際立たせている。本人は気付いていない様子だが、間違いなく一護の周りは八方美人であり、そして甘やかされていた。
しかし、どんなに可愛く人気が高かろうと、隊長であることに変わりなく、一度霊力を解放すれば、過日の霊術院のようになる。
「一番隊行ってくる・・・」
怒りを押し殺した声で言うと、浦原の横を通りぬけ、一護が隊舎に来た道を足早に戻り始めれば、浦原も追従する。
「・・・付いて来んな」
「だってアタシ、黒崎サンの副隊長ですから」
「その副隊長ってのを一番隊行って即刻クビにしてやるから楽しみに待っとけ」
「一番隊ですか?でも、総隊長はしばらく留守の筈ですけど。確か一ヶ月くらいは帰って来なかったかと思いますよ」
浦原が言い終わるなり、一護の足がピタリと立ち止まった。
「・・・、・・・」
やられた。だからさっき一番隊に行った時、留守だったのか。
一護の脳裏に、どこか余所余所しく挙動不審だった一番隊副隊長の姿が思い出される。
思い起こせば、一番隊隊長室に行く前に寄った雨乾堂でも、浮竹と京楽の態度がおかしかった。
自分以外は皆知っていたのだ。
一度廊下の天井を仰ぎ見てから、クルリと一護は振り返り浦原に向き合った。
「お前、何企んでんだ?」
一護の瞳は疑心暗鬼で満ちていた。
ようやくまともに自分を見てくれたことは嬉しいが、ここまで疑われていると、結構へこむなぁと浦原は表情には出さず思う。
浮竹と京楽にも同様に何を企んでいるのかと問い詰められた。
そんなに信用ないかなぁと自分の日頃の生活態度を思い返すが、浦原にはそんなに悪いような気はしない。
「何も企んでいませんよ、誓って」
両手を挙げ万歳のポーズを取った。
「だったら、なんでいきなり死神になった?しかも隊長である俺の不在中に、承諾も無く副官になって何もないってのか?無いって言って信じてもらえると思ってんのか?」
捲くし立てる一護に、浦原はなんと言ってもらえば受け入れてもらえるものか考える。
浦原も、一朝一夕で一護から信頼を得られるとは初めから思っていない。
少しずつ、できれば一日でも早く、一護が自分を好きになってくれるといい。
時間はいくらかけてもいいから、絶対に手に入れたい。
その為には初めが肝心であり、今がそうらしいことを浦原は直感で理解する。
「好きな人の傍にいたいと想うことは、変なことですか?」
浦原の言葉に一護はブラウンの瞳を大きく見開く。
「アナタが好きです」
言い終わってから、浦原は一護に初めて『好き』と伝えたことに気付く。
一目で恋に落ちて、その場で結婚して欲しいと申し込んだ。物の順序から言えば『好き』と伝える方が先である筈なのに、真っ白になった頭は何も考えられなかった。
「・・・それを信じろっていうのか?」
一護から疑いが消えたわけではないが、また浦原を殴り逃げるということも無かった。
「信じて、もらえませんか?」
「俺は男だ。女じゃない」
「知ってます。それでもアタシはアナタが好きなんです」
「俺はお前のことなんか好きじゃない。嫌いだ。」
抑揚無く言われた言葉の裏に、大嫌いの文字が隠れていることを浦原は気付き、胸を締め付けられると同時に目が細められた。
「・・・今は・・・まだ嫌いで構いません」
「今も、これからもずっと、好きになんかならない」
「だから副隊長を辞めろと?」
「・・・」
目を真っ直ぐに向けたままの無言が、肯定を意味する。
「しばらくだけ、一ヶ月だけでも我慢してもらえませんか?もし、アタシの力量が副隊長に足らないものだったら、遠慮なくクビにしてくれて構いません。そのときはアタシも文句は言いませんし、今回のように小細工もしません。」
そこまで言うと一護は斜めに俯き、少し考えてから、
「・・・一ヶ月だな?それで俺がダメだと思ったら、諦めるんだな?」
「はい」
大きなため息を一護は零す。上手く言いくるめられているような気がしなくもないが、一ヶ月我慢するだけで浦原が素直に他所へ移ってくれるものなら、軽く見過ごせない。
何しろ相手は、隊長である一護に内密で副隊長に任命されるという強行手段を行使出来たのだ。
話が夜一ならば分かる。
夜一は四大貴族の女当主であり、隠密機動の頂点に立っていることで持ちうる特権や権力は大きい。
しかし、浦原はそれも無しで副隊長になったというのだ。
「分かった、一ヶ月だけ猶予をやる」
「ホントですか!ありがとうございます!」
一瞬で浦原は破顔して微笑む。
「でも一ヶ月だ!延長はない!一ヶ月の仕事ぶり見て使えないと思ったら即刻別の隊に飛ばしてやる!」
「はい、分かってます」
足早に一番隊へ向かっていた足を自身の隊長執務室に向ける一護に、浦原もその後に続く。
告白は断られたが、とりあえず傍にいることは赦してもらえたことが嬉しい。
執務室に二人入り、
「はっきり言って、俺は虚討伐から帰ってきたばっかで疲れて眠ぃ」
そこまで言って一護は自分が疲れていたことを思い出し、次いで目の前の浦原の姿に、どっと疲れが増す。虚討伐より浦原相手にしていた方が疲れた気がしてくる。
これが毎日だとしたら、己は判断を誤ったかもしれないと一護は後悔したが、ここで前言撤回して浦原が駄々こねる姿も簡単に想像ついた。
もうなるようになれとだけ考えるしかないらしい。
「仮眠室で寝るから、溜まった書類やっとけ」
「もう終わりました」
ニコリと浦原が向けた視線の先には、5センチにも満たない書類の束が机の上に置かれている。
「アタシで出来るやつは全部しておいたんで、残りは隊長印が必要なものだけです」
「・・・なら茶してろ」
一護の舌打は聞こえなかったことにした。
「俺は寝るけど、絶対起こしに来るなよ?つか、部屋に入るな。入ったら即クビだ。戸を1センチでも開けたらクビ決定。」
そういい残し、一護は隊長室に隣接してある仮眠室に姿を消した。
「・・・寝顔見たかったな」
一護が部屋に入るなとさえ言わなければ、お茶を飲みながら可愛いだろう寝顔を堪能できたのに、と浦原は能天気なことを思う。
まあいい。一ヶ月は一護の傍にいられることが確定したのだ。一ヶ月だけで満足する気はないから、ゆっくり、ゆっくりやっていくことにしよう。
隣の部屋からは、しばらくして安定的な霊波動の波が伝わってきて、一護が眠りについたことが分かり、浦原は口元を綻ばせた。


作品名:紅の識者 作家名:シイナ