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紅の識者

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 ※  ※  ※

現世から来た霊達が暮らす、最も自由で最も貧しい街、流魂街。また生まれ変わり、現世で生を受けるまでの間、人間の魂はこの街で過ごす。
傾いた太陽が街を橙色に染めていた。もうすぐ夜になると、人の歩みも心なしか早くなる。
彼らが帰る場所は家族がいる家である。だが、その家族は血の繋がりを持つ家族ではなく、生活共同体に等しい家族だった。現世で死に、たった一人で流魂街にやってきて、身を寄せ合う。広大な尸魂界で特定の人を探すことは不可能に近い。血の繋がった家族と出会える者は本当に僅かだった。
わさわさと耳に心地良い音で流れる小川で、数人の子供達が水しぶきを上げながら楽しそうに魚取りをしていた。
夕日が川の水に反射して輝くその光景に、川土手の上を歩いていた浦原は目を細めた。
殺気石で囲まれた瀞霊廷では、このような景色を見ることは出来ない。
厭うわけではないが、瀞霊廷は白い建物に囲まれ、浦原は窮屈で無機質な印象を受けてしまう。
そんな場所から抜け出したくてよく足を流魂街まで伸ばした。
正式な死神ではないが、死神でなくては瀞霊廷には住めない。
浦原もまた貴族の出自であることから、瀞霊廷に屋敷を構え住んでいるが、死神になることが前提となっている。
この先、死神にならないとなれば、流魂街に飛ばされでもするのだろうかと、浦原は頭の隅で思う。
盛大な水しぶきを上げた音に、浦原はハッとして考えを中断させた。
周りにいた子供達が、慌てて転んだ者へ駆け寄る。
誰か川の中にいた者が転んだらしい。直ぐに挙がる歓声に、転んだ者は大事無いと直ぐに知れた。
しかし、子供達に囲まれた中から現れた色に、浦原は瞬きすることも忘れ見惚れた。
水に濡れた髪は夕日の日差しに輝いていたが、決してそれだけではなかった。
夕日と勝るとも劣らない橙色の髪。染められた人工的な色でないことは一目して分かる。
後ろを向いている所為で、浦原から顔を確認することは出来なかったが、立ち上がった橙色の髪をした人物は、周りの子供達より大きく15〜17の少年のようだった。
少年は濡れた着物を見回してから、周りの子供達と何か会話し、手を振って川から上がっていこうとする。
「あ・・・」
浦原は引き止めようとして無意識に手を上げるが、空を掴む。
少年は浦原がいる川岸と反対の川岸の方に上がり、後ろを追えない。
後を追って何をするというのだろう。我に返り、浦原は急に気不味い思いになる。
「・・・何してるんでしょ、アタシ」
見ず知らずの相手に声を掛けるにせよ、美女どころか毛色が違うだけの子供はありえない。
上げてしまった手で頭を軽く掻き、瀞霊廷に帰るべく足を向ける。
見ず知らずの子供で、水に濡れた着物が張り付いた体形から。
性別は男だろう。
男は趣味じゃない。面倒な子供はさらに論外。
柔らかく男を包み込んでくれる肢体。強いていれば、夜一のような出るところは出て、細いところは締まった美人がいい。
そんなことを考えながら夕日を背に浦原が瀞霊廷に帰り着いた頃には、すっかり日が暮れ辺りは真っ暗闇だった。
だが浦原はそのまま真っ直ぐ屋敷に帰りはしない。最近馴染みになった店で軽く飲んで帰るのが、常になっている。 
しかし、おかしなことに浦原の頭から、先ほど見た橙色が離れず、酒も旨いとは感じない。
「どうしたんですか、旦那」
陽気な店主が酒の進まない浦原に声を掛ける。
「なにか気に掛かることがあるって顔ですぜ?」
「分かります?」
「そりゃあ客商売も長いと、大概のことは顔みりゃ分かるようになりますよ」
なるほど、確かに居酒屋商売も長ければ、客の機嫌具合は手に取るように分かるだろう。
「別にそこまで気になるって程じゃないんです。明日になれば、多分忘れているようなことです」
そうだ。一晩眠り、明日になれば忘れてしまい、思い出しもしないだだろう。気に留めるようなことじゃない。
そう思うと気分も幾分軽くなり、酒の進みも速くなる。そのまま良い気分で酒を飲み、屋敷に帰れば、すっかり夜も更けた時間帯になっていた。
「おお、やっとお帰りになられましたか」
屋敷前に立っていたテッサイが浦原の姿を見つけるなり、駆け足で近寄ってくる。大抵のモノには動じないテッサイの慌てように、何かあったのかと視線だけで浦原は問う。
「それが、お昼に一度来られまして、主人は留守だと伝えましたら、また来るとおっしゃられて、一旦は帰られたのですが・・・ああ、顔が赤いではないですか!急いで水を飲んで酔いを醒まさねば!」
浦原が酒を飲んで帰るのはいつものことだ。今更何をテッサイは言うのだろうか。よほど動揺しているのか要領を得ないテッサイに、浦原は歩みを止めることなく屋敷の門を潜りつつ、
「だから、どうしたというのです?」
「だからですね・・・客間で待っていらっしゃるんです」
「ふ〜ん。で、誰が待ってるの?」
「護廷十三隊、十二番隊隊長です」
テッサイが言い終わると同時に、浦原の足がピタリと止まる。そしてUターン。
「また出掛けられるのですか?」
客が来ていると伝えた直後に出て行く素振りの主人に、テッサイの顔色は青褪める。これまでも何度か中央から使者が来ることはあった。
内容はテッサイも分かっている。なかなか死神なろうともしない主人に催促で来ていたのだ。だがそれらは全て末端の使者であり、テッサイもこれといって改める必要は無かった。主人は留守であると伝え、もし帰るまで待ちたいと申し出があれば、いたいだけ客間で待たせれば良い。
主人である浦原が帰っても、帰ってきたと伝えず留守を通す。
が、今回は末端どころではなかった。いきなりトップが来たと言ってもいい。
死神を率いる隊長直々に足を運んできたのだ。
「・・・ダメ?」
思いっきり嫌そうな顔をして浦原はテッサイを見やる。
夜一から上も痺れを切らしていると聞いたのは、つい昨日のことだ。
いくらなんでも早すぎる。しかも初っ端から隊長格を遣すなんて卑怯だ。
しかし、テッサイも相手が隊長格とあれば背に腹は変えられない。顔を小刻みに横に振り、拒否する。
「ダメに決まってんだろうが」
小声で話すテッサイと浦原の後ろから、咎める声が響いた。
高くはないが完全に声変わりしていない低い声。
少年のものだ、と思った瞬間、浦原の頭に夕方見た橙色の髪が思い浮かぶ。
「マジで話で聞いてた通りみたいだな。俺だってテメエの我侭に付き合って何回も来るほどそんな暇じゃねぇんだ。目の前にして逃がしてやる気はねぇぞ」
憤慨した口調は、明らかに怒っている。振り返りたくはないが、どうしても橙色の髪が頭を掠め、浦原はゆっくりと振り返る。
「護廷十三隊、十二番隊隊長黒崎一護だ。単刀直入に言って、速攻死神になれ」
不遜な物言いで一護は浦原に言う。
が、浦原は一護を直視し固まったまま、無言だった。その視線があからさまに不躾だったので、一護は怪訝に思い眉間に皺が寄る。
「うそ・・・」
独り言にも近い浦原の呟きは、隣にいたテッサイにようやく聞こえるくらいだった。
夕方見かけた橙色の髪が目の前にあった。いくら夜になり夕方とは違うといっても、その鮮やかな色は見間違えようが無い。
作品名:紅の識者 作家名:シイナ