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紅の識者

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     ※   ※   ※

隊長格の斬魄刀解放は第一級禁止事項である。
よって霊圧開放も強すぎる力による影響が大きすぎるため、不可抗力であろうが無かろうが小言の一つ、反省書の一枚くらい書かせられる。
「だからって、現世に虚討伐はねぇだろ・・・」
ブスッと頬を膨らませる仕草が子供みたいだといえば、一護は顔を真っ赤にして怒るのだ。
先日の不必要霊圧開放により、力の弱い霊術院生が失神して倒れるなどの人的被害は甚大であり、開放された霊圧で辺りの建物も吹き飛ばされるなど、とても隠し通せるものではなかった。即刻地獄蝶が飛んできて、一番隊に来いとの連絡ののち、自慢の髭を梳く山本から、説教と討伐命令が下された一枚の紙が、一護に渡された。
「霊圧開放しても、人と建物に被害が及んだのはマズかったかもね」
クスクスと微笑みながら、浮竹は虚の資料を一護に手渡す。
「山じいもそれくらい大目に見てくれたっていいのにねぇ〜」
「だよな!俺だって好きで開放したわけじゃないのに、じいちゃん分かってくれねーんだぜ?」
浮竹のところに遊びに来ていた京楽が一護の肩を持つと、パッと顔を明るくさせて一護は京楽に懐く。
懐く様は猫そのものだ。
人見知りの激しい猫は、一度心を赦したものにどこまでも無警戒に懐く。
明るい髪色と同じ色をした大きな瞳と、ふくらみを帯びた頬は、まだまだ子供の名残を思わせるし、真っ直ぐに前を向く様は、見ていて微笑ましい。ずっとこのままでいて欲しいと思うのは大人のエゴだろうか。
「そう言えば、一護くんが浦原を説得して霊術院入れたんだって?凄いじゃないか。よくあの浦原が首を縦に振ったもんだ」
何も知らない浮竹は、知らずに一護の爆弾を踏んだ。
「・・・浮竹さん」
「ん?なんだい?」
「俺の前で、二度と、その名前言わないでくれる?」
突然機嫌の悪くなった一護に、浮竹は理由は分からずとも、また霊圧開放しそうな雰囲気に、
「・・・わかった。二度と言わないから、ここで霊圧開放なんてしないでくれよ?」
建物の損壊被害も怖いが、ここには大事な虚の資料が山積みされている。
それらを失くすことだけは全力で回避したい。
そういえば、噂の浦原が現在霊術院に入っていることを浮竹は思い出し、一護が霊術院で霊圧開放してしまったのも、それと何か関係あるのかと思案する。浮竹と浦原は親しい程ではないが、夜一を通じ、何度か酒を交わしたことがあった。
夜一との腐れ縁らしく、浦原は一筋縄ではいかない性格であることは直ぐに察せられた。
何より浮竹が驚いたのは、浦原の力だ。表面上は上手く霊圧をほどほどに押さえ誤魔化している様子だったが、その奥に潜むモノは決して侮れないものがあった。
浦原の本当の実力がどれくらいかは推し量るしかないが、知っている者がいるとすれば恐らく夜一くらいだろう。
その浦原がとうとう霊術院に入り、死神になろうとしている。
今まで頑なに拒んでいたのに、何が浦原を変えさせたのか。
面と向かって問えない代わりに、浮竹は一護を頭の先からつま先まで観察する。
「・・・何?さっきからじっと見て」
「いやね、可愛いなと」
真面目な顔と口調で言う浮竹に、
「セクハラ発言かい?」
京楽が副隊長の七緒から毎日言われている名言を返す。
本人としては親しみを込めてしているのだが、まともに伝わった試しは一度もない。
「お前と一緒にするな。セクハラというのは、お前のように、どさくさに紛れて腰に手を廻すようなことを言うんだ」
浮竹にそこまで言われて、一護はようやく自分の腰に京楽の腕が廻っていることに気付いた。
最初は一護の方が味方になってくれた京楽に寄って行ったのだが、京楽の手があまりに自然に腰へ廻っていたので、全く気付かなかった。
浦原のことがあるだけに、今の一護はそういったことを冗談として受け取れない。京楽をいい人だとは思うが、浦原同様にそっち系の人ならこれからの付き合い方を考えなければならない。
一護は腰に廻った手と京楽の顔を見比べ、
「そうなの?」
「いや、・・・つい、いつもの条件反射で・・・深い意味は無いから、誤解しないでね?」
背中に冷や汗を掻きながら、京楽は弁解する。
男に趣味は無いが、一護を前にするとつい無意識に女性にしてしまうのと同じように扱ってしまうのだ。女性と同様、子供は護るべき対象だからと京楽は考えているが、深く考えると怖い方向に行きそうで、あえて考えないようにしているもの事実だった。
「それが虚の資料だけど、あくまで参考にね。虚の能力は斬魄刀同様に千差万別だから。でもキミなら大丈夫とは思うけれど・・・総隊長もよく思いつくよな・・・こんなの・・・」
浮竹は一護の持ってきた紙を手に取り、ぺらりと顔の前に出す。
「そう?でも一週間も猶予もらったし、平気だぜ?」
「いい子だね・・・一護くんは・・・」
「ほんと・・・そのままでずっといてね・・・」
浮竹と京楽の二人そろって涙を拭うが、一護が分かっていないだけで、任務そのものは決して楽ではない。
もし、京楽か、浮竹のどちらかが任じられたら、眉間が引き攣っていたことだろう。

『ある地点の霊魂の虚化割合が、他に比べて異常に高く、その原因追求と共に原因となる虚および周辺の虚を討伐せよ』

ずいぶん前になるが、個々万別な虚の能力の中に、プラスの霊魂を強制的に虚化させる力を持った虚がいた。問題だったのは、死神すら虚化させてしまうということだった。特殊な能力だけに、下手な者では返り討ちに合うため、万全を期して隊長格が向かい、ようやく原因究明に至ったのである。
今回の事件もそれに非常に酷似しており、同類の力を持った虚が現れたという見方が強い。
そこに一護がタイミングよく問題を起こし、山本は一護に問題を押し付けたのである。
「今回も一人で行くの?」
一護の頭を撫でつつ京楽が尋ねると、浮竹から渡された書類をぺらぺらめくりながら、
「うん、だって俺副官いないし」
「そろそろ決めたらどうだい?別に副官になるだけの力を持った者がいないというわけじゃないんだろ?副官いると仕事の効率が全然違うよ?」
「そりゃあ、あんなに七緒さんに仕事押し付けてたら楽だろうと思うよ」
「墓穴掘ったかな・・・」
京楽の視線が宙を泳ぐ。
「でもさ、それは置いといて、京楽さんは七緒さんなら自分の副官になってもらいたいって思ったからだろ?浮竹さんだって海燕が副官になったらいいなって思ったから副官にしたんだ」
真面目な顔で一護に言われ、京楽と浮竹は顔を見合わせた。
「俺はまだ、コイツだったら副官になって欲しいなって思うヤツがいないんだ。だってずっと一緒にいるんだぜ?嫌いなやつと同じ部屋で仕事したくねぇもん」
ちがう?と視線だけでで問われ、京楽と浮竹は苦笑する。護廷十三隊の長期副官不在はあまり褒められたものではない。だが、自身とて、いくら能力があっても、嫌いな者や苦手な者、気の合わない者を副官に任命して、行動を共にすることは遠慮したい。
「そうだね、一護君の言うとおりだ」
愚問だったと京楽は心内で反省する。
「一護君が副官に選ぶやつってどんなやつか楽しみだね」
「めちゃめちゃ有能で頭の柔らかいやつ選ぶぜ、俺は。間違っても白哉みたいなのは選ばねぇ」
作品名:紅の識者 作家名:シイナ