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紅の識者

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怒りが篭もり、個人感情のった物言いに、自分の知らないところでまた何かあったのかと、浮竹は微かな頭痛を覚える。
一護や海燕のように自由奔放を絵に描いた者と、規律厳守で法を第一にする貴族筆頭白哉は、何かにつけて衝突する。一護達は白哉を石頭と呼び、白哉は一護達を問題児と位置付けている。
自由奔放であることも、規則に従順なことも、それぞれに優れている部分があり優劣はつけられない。
おかしなことに、共同任務となると衝突しながらも、絶妙のコンビネーションを見せるのだから面白い。
結局、嫌々を言いながら、お互いを認めているのだ。
ただ、それが表に態度として現れるかどうか期待できるかは怪しいが。
「いつか、そのめちゃめちゃ有能で頭の柔らかい誰かが現れるといいね・・・」
「おう。じゃ、資料ありがと!お土産はあんまり期待しないでね!」
京楽から受け取った資料を懐に入れて、一護が部屋を元気に出て行く。
期待するなと言いながら、浮竹のために良さそうな健康食品を、京楽の為に美味しそうな酒を一護はせっせと探すのだ。仕事とはいえ、それくらいの息抜きは赦されるだろう。
思わぬところで一週間後の楽しみが出来たことに、京楽と浮竹は何も言わず視線だけ合わせ、声を上げて笑った。

   ※   ※   ※

常になく、護廷十三隊隊舎全体が、ざわざわと落ち着きが無かった。
廊下のところどころに立ち話するものが見られ、新しい情報はないかと耳に神経を向けている。
普段なら仕事をサボっている者を見つけたら叱る筈の上官すら、一緒になって噂話をする始末である。
死神達の注目は一人の人物に注がれていた。長く死神になろうとせず、このまま死神にならないのではと思われていた人物が、突然の霊術院入学し、噂に違わぬ能力の高さを見せ付け、一週間という超短期で卒業、護廷十三隊配属が決定した。
そして目下注目されているのは、噂の浦原喜助がどの隊に配属されるかということである。力があれば当然上位席官として配置されるのだが、それまでいた席官が降格となることは必定である。
誰もが浦原が自身の所属する隊以外に配属されないかと、心の中で願っているのだろう。
当の浦原喜助は、一番隊隊長室に呼ばれ、総隊長の山本直々に任命状を受け取っている最中で、任命式が終わるまでは、誰も浦原がどの隊に配属されたか分からない。
もっとも総隊長直々に新入隊員が任命状をもらうこと自体、通常ではありえないのだ。
その事実が、さらに隊員達の落ち着きを無くさせる要因となっていた。

一番隊隊長室に護廷十三隊の隊長副隊長が、一部を除いて全員集められ整列された中で、
「本日付で浦原喜助を護廷十三隊、十二番隊副隊長に任命する。異論があるものは即刻申し出よ」
重い静けさが部屋を満たす中、山本の低い声だけが響く。異論を申し出る者は一人もいなかった。沈黙だけが返る。
「では、異論無しとして、任命状を受け取るがよい」
「はい」
浦原は山本から差し出された任命状を受け取り、懐に直す。入隊直後から副官になる者など滅多にいないのに、浦原は興味無さそうに落ち着き払っている。
「今回はそなたの能力の高さを買って、特例として副官任命が決まった。それを胸に精進せよ」
「心しました」
「ふむ、これをもって本日の隊首会は終了とする」
山本のその一言で部屋の空気は一気に軽くなる。各々が部屋を出て行く中、同じく部屋を出ようとした浦原を浮竹が右肩を捕まえ、左肩を京楽が掴み捕らえる。
「・・・まずは、副官就任おめでとう」
「ご丁寧に、ありがとうございます」
浮竹の祝福に、満面の笑みで答える辺り、浦原が副官になったことを真実喜んでいることが知れる。
しかし、
「いきなり死神になったのはどんな狙いがあってか、そこのところよく聞きたいんだけど、ちょぉっと時間もらえるかな?」
今度は反対側から京楽である。
浮竹同様、京楽も何度か浦原と酒を飲んだことがある。
特に酒飲みの京楽と浦原は気が合い、深酒をしてしまったこともあった。
全くの見知らぬ仲でもないのだから、ここは腹を割って話そうじゃないか、と囁く口調には、話さない限り逃さないと言っているに等しい。
先ほど山本は特例として、と言ったが、特例になったのは浦原が入隊条件を付けたからである。

『十二番隊副隊長にさせてくれなかったら、護廷十三隊に入らない』

聞くだけなら子供の我侭と一蹴するそれも、浦原が言えば洒落にならない。
あれだけ長い間手を焼いて、ようやく真央霊術院に入ってくれたのだ。
ここでヘソを曲げられて死神にならいと言い出されてはたまらない。
幸運なことに十二番隊の副官は不在のままだった。
これまでも副官不在を良く思っていなかった中央は、あっさり浦原の要求を呑むことが満場一致で決定された。
隊長である一護には、後で適当に誤魔化してしまえばいい。
「え〜、アタシの味方になってくれるって約束してくれたらいいですケド、どうしよっかな〜」
「味方って、また何か悪巧みでも考えて・・・」
浦原の人となりを体験済みの浮竹は、思わず掴んでいた浦原の肩を離してしまう。以前体調を悪くしたとき、良い薬があるといって、新開発された薬の実験台にされた忌まわしい記憶が蘇る。
あの時は一ヶ月余り、酷い下痢と腹痛に悩まされた。
「やだな〜、アタシが悪巧みなんてするわけないじゃないですか〜」
全く悪びれない浦原に、
「と、兎に角だ、ここでは話も出来ん。場所を移そう」
一番隊隊長室では、落ち着いて話も出来ないと、三人でそそくさと浮竹の十三番隊隊長室である雨乾堂に場所を移す。あそこなら周りを池で取り囲まれ、渡り廊下を通らなければ部屋に近づくことが出来ない。
怪訝な顔をする海燕に、くれぐれも部屋には誰も近づかないでくれと言い残し、
「ここならいいだろう。何を企んでる!?浦原、正直に言え!!」
そんなに興奮したらまた血を吐くぞ、と京楽は思ったが、今保てば明日倒れてもいいかと思い直す。
「だから何も企んでません、ってば」
「だったら何で今頃になって死神になろうと思ったんだ?あれだけ俺がなれといっても首を横に振り続けたやつが、一護君が行け、ば、首を、縦に・・・・?」
詰め寄る途中で、浮竹はいきなり目が据わった浦原に、口調がだんだん小さくなり、最後は消えてしまった。
「・・・浦原?」
「一護君?それは黒崎サンのことですか?」
「そう、だが?」
何が浦原の気に障ったのか分からず、浮竹は疑問符を頭上に飛ばす。
「アタシの黒崎サンに馴れ馴れしい・・・」
「待て浦原!早まるんじゃない!落ち着け!」
問答無用で斬魄刀を抜刀しようとした浦原を、慌てて京楽が後ろから押さえる。
相変わらず、何をしでかすか分からないヤツだと、再確認する。
だが、唯一、浦原が突然豹変した理由が一護にあるということだけは分かった。
浦原をようやっと落ち着かせ、京楽が再度問う。
「一護君と何かあったのかい?」
「何かあるもなにも、一目で黒崎サンに恋に落ちまして。だから二人とも協力してくれますよね?」
エヘ、と浦原に首を傾げられても、全く可愛くない。
「・・・本気か?本気で一護君に・・・ほ、惚れたと?」
浮竹の体が小さく震えている。
作品名:紅の識者 作家名:シイナ