紅の識者
「赤い糸で結ばれた運命の出会いって本当にあったんですね〜」
「一護君は、お前が副隊長になることを承知しているのか?」
つい先日、虚討伐のために、浮竹の元へ資料を受け取りに来た一護は、微塵もそんな素振りは見せなかった。
どちらかと言えば、浦原の名前を出したとたんに機嫌を悪くし、好印象は持っていない筈だ。
「秘密ですヨ?虚討伐から帰ってきて涙の再会なんて素敵でショ?しかも副隊長だからこれからいつも一緒にいられるなんて最高じゃないですか」
嬉々としている浦原には悪いが、涙の再会どころか血の雨が降りそうで恐ろしい、と浮竹は思う。
外見は可愛らしい子供だが、一護はれっきとした十二番隊長であり、それに相応しい力を持っている。本気で力を開放すれば、真央霊術院の比ではない被害が出るだろう。
それは京楽も同様だったらしく、浮竹が視線だけチラと向ければ、思いっきり首を横に振った。
そういえば、一護は<めちゃめちゃ有能で頭が柔らかい>副官を求めていた。
その点で言えば、浦原は文句無しだろう。
この調子では、一護の為なら平気で影で暗躍しそうだ。
「そろそろ行ってもいいですか?めんどくさいケド、一回くらい十二番隊の隊舎に挨拶行かないと、黒崎サンから怒られそうなんで」
浮竹と京楽の問答に飽き始めたらしい浦原が、話を終わらせようとする。
「最後にあと一個だけいいか?」
「最後ですよ〜?」
「浦原、お前、もしかして一護君の副官になりたい為だけに、死神になったとか、言わないよな?」
恐る恐る各所を強調して浮竹が問えば、
「他に何の理由があるっていうんです?」
変なことを聞くなと顔に貼り付けて、浦原は肯定した。
「・・・分かった・・・ありがとうな・・・もういいよ・・・副隊長の仕事頑張れよ・・・」
呆然とした浮竹の言葉は、ほとんど抑揚のない無機質なものだったが、浦原はやっと開放されると喜び、一言だけ断ってさっさと部屋から出て行った。
「浮竹・・・大丈夫かい?」
頑張って問答したから疲れただろう、と京楽は布団を敷いて浮竹を横にする。
二人だけ残された雨乾堂で、ここまで長い沈黙は珍しいのではないだろうか。
いつもなら病人が寝ているからと言っても、海燕や小椿達が騒いで静かな時など無いというのに。
「・・・大丈夫だと思うか?」
主語は今更必要無かった。
浮竹の問いに、京楽はなんと答えればいいかしばらく迷い、
「まぁ、なるようになるしかないよね・・・」
視線すら合わせられないことが悲しいと京楽は思った。既に任命式は終わっており、今更何を言ったところでどうなる訳でもない。
全く食えない爺である。
一護が虚討伐で留守にしている間に放しを進めてしまうとは。
とにかく修羅場は一護が帰って来てからが本番になる。まだ一護が虚討伐から帰ってくるまであと数日はある。
それまでは束の間の平和を甘受していようと、浮竹と京楽は迫り来る嵐に目を瞑ることにした。
(20100925)