空の境界~未来への軌跡~4
二人が居る事を忘れて抱き合ってしまった自分が恥ずかしく顔が真っ赤になった。それは式も同じく真っ赤だった。
「速く離せ。幹也。」
今は、ほかの事が優先だった事を思い出し名残惜しいが式を離した。
(これでやっと話せるみたいね。)
そういって風景が曇天に染まり周りが暗くなった。
(怯える必要はないは。これはただの私のイメージなのだから。)
「けれど、どうして僕らの子供に祝福を?」
(それは、その子が彼女以上にここに近づけるから。)
荒耶宗蓮が式を狙ってきたのはその為だった。そして、皮肉にも僕達との結び付きが強くなる結果をもたらした。
すると「雪の様な物」が空から静かに降り注ぎ当たり一面を雪景色に変えてしまった。
でも、それは冷たくなく又、熱くもなかった。掌に乗せては雪のように水になった。
そして、一瞬少女の姿が始めて「式」と会ったあの時を思い出させた。
(その子が飢える事無く、運命に抗い約束の地までたどり着くため、私は「雪の様に綺麗だけど冷たくない」「雪」をその子プレゼントするは。)
本当に白く降りたての雪の様に綺麗で言葉を失った。
「俺からは、即物的にそいつで良いだろ。」
そういって、「名刀・備前長船」を指した。
「お前じゃなくその子が振うかもしれんが、それまでその子の為「母親」のお前が使え。」
「言われ無くてもそうする。」
その言葉に安心するような笑みを浮かべた。まるで長年忘れていた「微笑み」を取り戻した老人の様だ。
(それじゃあ、三人を速くもとの世界に返しましょうか。)
「そうだな。「闇」が蠢きだした様だからな。」
そういうと僕らは、引っ張られるようにその世界から消えていった。
ただ最後に少女が
(記憶が無いけど、また会いましょう。)
そう言った事だけが耳に残った。
次の瞬間、僕らは病院のベットで目を覚ました。
〜結婚式準備での苦労〜
それから、本当は子供の事を隠したくて一週間も逃げ回っていたことを、家族に自供した。それを知って早速僕は、義父からもう一撃のパンチを貰う事になったが、直ぐに実家に連絡と、打合せ等をすることになった。
「学校卒業をどうするか?」
等、式は式で大忙しだった。そして実家に戻り、事の経緯を話すと今度は実父からパンチを貰う事になってしまった。因みに、顔合わせの時、義父の手下、モトイ部下の皆さん達が護衛の中、「両儀家」御用達の料亭で行われた。さすがの両親もその異常な空間に気圧されしていた。そんな中、式が居ない事に気がついた僕は、式を探し料亭を歩き厨房に行きついた。そこには、料理人の姿が見えず式と、女中さんしかいなかった。今回の料理を、自分の手料理でもてなそうとしていたのだ。社交性に乏しい式なりの最大限の社交的スキルを奮えるのは、「料理」しかなかった。そして、この場にそれを用いる事は最大限の式なりの、持成しなのだろうと感じた。それには、実家の両親も感動して「何時でも孫を連れて遊びに着なさい。」と言ってくれた。半分位は、「式の手料理目当て」だろうと思ったが、そう言って認めてくれただけでも嬉しかった。
そして
「子供に何か在ると大変だから産れたら即結婚。」
ということになったのだ。
結局、急いで事を運んでも「一週間」もかかってしまった。
「なんで、お父さんも、お母さんも簡単に落ちちゃったのかなあ。」
念のために鮮花には教えていなかったので、式の手料理を食べ損なった。これから幾らでも機会があるので、その時を楽しみにしてもらおう。
そして、自分は「蒼崎棟子」の居所を突き止めそこに向かう途中だ。
「棟子さんに、魔術教えて貰うのだから、一緒に連れて行って。」
とのことで、今度は正規の外出届を出して僕にくっついてきていた。そして一番身を隠している可能性のある物件「伽藍の堂」へ向かっていった。
~宿題~
蒼崎棟子は、ほとぼりが冷めるまで「伽藍の堂」に身を隠す事にした。もし下手に居場所を変えようものなら、間違いなく「協会」に見つかってしまう可能性が大きかった。あんな事件を起こしたのだ、いくら「遠坂家」の権力でも完全に隠蔽なんて出来る筈がなかった。「問題を不問にしたければ、「蒼崎棟子」の首でも持って来い。」なんて言われている可能性すらある。それは無いにしろ、この街に張り巡らせた「対魔術師用」の結界が生きているうちは、変えたくなかった。そしたらまた一から張り直しになってしまうし、その間隙を点かれたら厄介だったからだ。
暫くゆっくりと構えるのが良いと思った。結局一週間前のあの日、大輔を殺すことも記憶を消すこともできなかったが、また新しい「お題」を出した。
「実は、自分は生身の人間じゃないんだ。」
「え、そうなの?」
「そうだ。ここまで関わった限り教えてやるが自分は「自分を模した人形」で、更なる高みを目差しているんだ。」
そして、「人形」としての基礎骨格の一部にかけてある幻術を解いた。
「それにしては、どう見ても魅力的な「人形」だね。」
それはほめ言葉なのかどうだか解らないが、取り敢えず話しを進めた。
「もし、これから先、私と付合うとなれば、「生身の私」を見つけてくることだ。」
「君が知っているのじゃないの?」
「正直、出来た人形が「自分と全く同じ、瓜二つだった。」時点で、「自分じゃなく、人形に極めさせれば良い。」と考えてしまって、「生身の私」が何処に居るか、もしかしたら死んでいるか、すら解らないのだ。」
「とっても勿体無かったね。」
その感覚は今一理解できなかったが、
「「魔術師」と結婚したい。」なんて物好きは、そんなものだろう。」
と思った。
「だから「生身の私」を見つけてくることが、出来たらこれからも考えてやる。」
「それは、「結婚」の事を言っているのかな?」
「この難題に答えられたら、考えてやる。」
「ほんと。じゃ「結婚」してくれる?」
「だから、なんでそうなる?」
「いいだろう。」
自分でも出来ない、最上級の難題を出したのだから、これ位は良いだろうと思い始めた。
「分ったから、今は寝ていろ。」
結局「約束」してしまった。
そして、大輔を眠らせると朝日が差し込む病室を後にしたのだ。
~魔術師の弟子~
そして、再び開くはずのない扉を眺めた。思えば逃亡中の身の上でありながら、少々長居しすぎ、因果を結び過ぎたのかも知れない。鮮花しかり、両儀式しかり、幹也しかり、大輔に至っては「結婚」と来てしまった。魔術師たる者の中に、「実験」としてそれを行う者もいるが、「あくまで実験」の域を出ない。
「私は、何を考えているんだ?」
式と幹也にでも当てられたのかと一瞬幸せになった、自分を考えてしまった。「魔術師」としての幸せを望んでいた筈なのに、「普通の幸せ」を考えてしまうのは、まだ修行が足りなかったかもしれない。
すると扉が開いた。
「もう追っ手が着たか。」
そう思い咄嗟に火球を作り出すと、開いた扉に向かって投げつけた。
すると火球は、霧散し消えてしまった。
そして、そこには弟子。黒桐鮮花が立っていた。
「どうして、お前がここに来ている?」
すると、鮮花は自分に抱きつき泣き出してしまった。
作品名:空の境界~未来への軌跡~4 作家名:旅する者