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【DRRR】 emperorⅠ 【パラレル】

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そこからは崖の上から転がり出した石のようだった。
自分は幼くよくわからなかったが、個室の中で沢山の大人に囲まれて「歌え」と口々に言った。気持ちの悪くなりそうな沢山の甘いお菓子。いろんな楽器。知らない人ばかりの閉じた部屋の中。
僕は震えながら「無理だ」と答えた。
風が体の奥から吹き出すような声は、随分といろんなふうに歌えるようになっていたが、それでもやっぱり気分が乗らなければ一声も出なかったからだ。
怖い、ただ怖いところだった印象が強い。
そこで両親と大人たちが話し合い、また別の場所に連れて行かれた。
山の中にある小屋みたいなところで、そこにもやはり都会の街で見たのと同じような個室があった。

僕はそこでしばらく両親とともに過ごしたと思う。
山に登ってみたり、川まで行ってみたり。
そして夜にその情景を思い出して歌って欲しいと父と母が望み、僕は練習してきたように様々な音を出して歌い聞かせた。
小さな部屋のなかで随分たくさん歌ったと思う。
しばらく日が経つと、今度はまた知らない大人たちが現れ、僕の歌の録音を聞かせ、ここをああ歌え、この部分を何度も歌え、歌え、歌えと、言い始めた。
父も母も頷いた。大人たちは気持ちの悪い猫撫で声で、幼い自分に押しつぶす勢いで笑った。
ああまた、この人たちも自分の声を求めているのだ。怖い。怖い。
1つ、また1つと、胸の中で何かが剥がれていく音が聞こえた。

だんだんと歌うこと自体が怖くなってきていたが、父と母が望むので、大人たちの言うように歌っていった。
そこに様々な楽器の音をつけ、1つの曲に仕上げていく。
自分が気ままに歌っていたものが次第に形を変えていく。余計に恐ろしくなっていった。
風の声が、出なくなってきていた。

大人たちは「ここはそうじゃない」と言った。
僕は言った「僕の歌じゃない」。

テレビから僕から出ていたはずの風の声から作られた歌が聞こえ始めたのは、そのすぐ後だったのだと思う。

あまり覚えてない。
たぶんその頃、僕は音楽恐怖症というのになっていた。
もう川のせせらぎも、木の葉の揺れる音も、誰かの歌う声も、弾かれる音程も。
何もかもに、吐き気がした。
怖くて、怯えて、聞こえる音が全て恐ろしかった。

しばらく、僕は何の音も聞けずになって。もうとうに風の声は出なくなっていた。
そしてそれも気が付けば何もかもが終わっていたのだと思う。
ぼんやりと覚えている続きで、僕は正臣と虫取りに出掛けていた。
遠くに聞こえた学校の下校時刻を報せる音楽も、特に怖くなくなっていて、笑って一緒に帰る。
そこへ突然、正臣の家から、そのテレビからあの歌が聞こえて。

その後のこともやっぱり覚えてないけど、それでも正臣は翌日も僕を誘いに来て、一緒に遊びに出掛けたんだったと思う。
そうやって正臣は、僕の恐怖に栓をしていった。
歌う、という行為にだけは蓋しきれずに、本能的な強い拒絶を残したまま。

自分の歌が”エンペラー”という名前で売り出されていたことを知ったのは、もっと後になってからだった。