【DRRR】 emperorⅠ 【パラレル】
次に気がついたのは、どこかの倉庫の中だった。
黄巾族が溜まり場にしていた場所によく似ているが、少し違う。まだ使われている場所のようだった。
大きなクレーンや事務所に使われているのだろう小屋が隣に見え、倉庫内を照らすぼんやりとした光がそこから漏れていた。
自分は高く積まれた荷物の奥で、縛られたまま転がされているらしい。
殴られた腹部が嫌な痛みを訴えているが、他にどこか傷つけられた感じはしない。
ということは、自分に恨みを持つ者ではないらしい。
そもそも男たちの年齢的に少年の部類ではないから、自分を狙う可能性の一番高い黄巾族とは明らかに違っていた。
そういうことなら、自分は誰をおびき寄せるネタに攫われたのだろう。
予想は、静雄さんか、臨也さん。
この2人はどこででも簡単に恨みを買ってい来るし、自分と仲がいいのはどちらもよく見られている。
「おい、本当に来んだろうな」
「コイツの携帯ロックかかってやがったからな。直接呼べなくて事務所の方に電話して呼び出しかけたから、時間かかるかも」
「チィィィッ、子供のクセに変な知恵つけてんじゃねーよ」
チンピラの1人が近づく気配を感じて気絶したフリを継続する。
「おい、傷めつけんなよ。そういう約束になってんだからな」
「くそ面倒くせーなオイィィ」
近づきかけた足が引き返して行った。
まだ意識を取り戻したことはバレてないらしい。その方がいい。携帯を取り上げられているのだから、自分から助けを呼ぶ手段は今のところ無い。起きたことが知れればパスワードを教えろと殴られ、結局自分で携帯を操作することは叶わないだろう。
そして、事務所に電話した、ということは。
臨也さんは全て自分の幾つも持っている携帯で対応しているから、自分の知る限りでは違うと思う。
ならばやはり、静雄さんか。なら、僕を傷つけない約束、というのは一体…。
ドンッ!!!!
その静雄さんに対する人質という結論に達したとほぼ同時だった。
大音量に振り返れば、倉庫のシャッターが派手な音をたてて大きく形を変えた様子が見える。
やっぱり。心の中で少し笑う。
その人なら、この程度のチンピラ、相手にもならないはずだ。あの人は存在が非現実的なのだから。
「帝人ー!!」
ビリビリと体中が痺れそうなほど大きな声が倉庫中に響く。
肉食獣の咆哮のようで、圧倒的な力量の違いをそれだけで見せ付けた。
「…っはい、静雄さん」
「て、てんめぇぇぇぇぇ!!」
「来たぞ、構えろ!!」
返事をすれば、一瞬安心したような表情。
そしてすぐ後に獲物を捕らえた視線がワラワラと飛び出てくるチンピラ達に向けられる。
こんな状況だが、こんなに頼りになる人もいなかった。それにこの人が息を切らせ、自分のために大嫌いな喧嘩に自分から飛び込んできたことが何より嬉しい。
「平和島静雄、お前にはたっぷりと借りがあるんだよ!」
「ごちゃごちゃうるせぇぇええええ!帝人を離しやがれ!!」
手近にあったと思われる何か大きなものが持ち上げられるのが見えた。
ただ、倉庫内が暗いせいでそれが何かまではわからない。とりあえず普通は持ち上げるなんてことは不可能なもののようだ。
チンピラたちの間にざわめきと怯みが伝染する。
「平和島、お前、コイツがどうなってもいいらしいな!」
リーダー格らしい男の声がわずかに上ずった大声でけしかけた。
混乱しかけるチンピラ達の中で、さっき電話したと言っていた男だ。いきなり転がされていた帝人の首元のえりを片手で掴み、膝が浮くまで引き上げる。急激な上昇と詰められた喉元に咳き込んだ。
投げる体勢に入っていた静雄さんの動きがピタリと止まる。
「お前がそっから1歩でも動いてみろ、その度にコイツに切りつけるからな」
頬の辺りに冷やりとした金属の冷たさを感じる。
恐らく小型のナイフだろう。
刃渡りは臨也さんの持つナイフよりは短そうだ。心臓か動脈を狙わないと殺傷能力は低そうだが、それでもやはり刃物が突きつけられていることに変わりは無い。
本能的な恐怖が体中の走り、漏れそうになった悲鳴を息を止めて飲み込む。
きっと静雄さんのことだ、5秒もあればここにいる連中を蹴散らしてここまで助けに来てくれることが可能だろう。
その5秒間でなら、怪我をしても大怪我とまではいかないだろうなどと思う。
静雄さん、僕のことは気にしないでいいですから、一瞬でノして下さい。
そう叫ぼうとして、多少の怪我を覚悟したのに。
視界の中に映ったのは、武器になる巨大な金属を横に捨て、両手を垂らした静雄さんの姿だった。
どうして。
作品名:【DRRR】 emperorⅠ 【パラレル】 作家名:cou@ついった