【DRRR】 emperorⅠ 【パラレル】
「そうだよなぁぁ、それでいいんだよなぁぁ」
「そのままそこに膝をつけ。いいか、何されても手ぇ出すなよ。反撃したらその瞬間にこのガキはお終いだ」
「…帝人を傷つけんじゃねー」
静雄さんは、膝をついた。
僕は理解が出来なかった。この人は自分の能力を過小評価してるのか?それとも自分は少しでも傷がつけば死んでしまうと思われているんだろうか。
膝をついてしまえば、さすがに一瞬で立ち上がって20人程度いる連中全部を倒したとしても、時間がまだかかるだろう。
そうなったら、自分はどの程度まで持ちこたえられるのか。
その自信はなかった。
「こりゃいい、あの平和島静雄を殴り放題だぜ!!…ってえええ!畜生!」
素手でチンピラの1人が殴りつける。
しかしどうやら殴った方がダメージを受けているようだ。さすが静雄さん。やられてても強い。
でもそんなふうに一方的にやられるなんて、静雄さんらしく、ない。
「てめぇにやられた弟がずっと入院してんだよ、てめぇも少しは味わえや!!」
今度は金属のポールのようなもので頭から殴られた。重く鈍い音が響いてくる。
遠目でよく見えないが、あれは確実に流血を免れないだろう。
もしあれが帝人にされていたら、死んでいるかもしれない。それでも彼は動きもせずに、ただその不条理な攻撃を受身もとらずに受け止めていた。
その後も、一方的な暴力の音が続く。
こんな。
こんなつもりじゃなかった。
静雄さんはいつも誰よりも強くて、何にも屈せず、そして優しかった。
こんなのは違う。
優しさでも強さでもない、これは違う。
こんな。
ゴキリと嫌な音が響き、膝立ちをしていた静雄さんの体が大きく傾いで行くのが見えた。
横倒れになった姿に、全身の血が引いていく。
さらに寄ってたかって蹴り倒されて、叩かれている様に、それ以上堪えられるはずもなかった。
自分の中の何かが崩れて、同時に奥底から何か溢れてくる。
これが何かは、知らない。
「何だよ、予想以上に上手くいったじゃねーか」
確実な勝利に気が緩んだのか、自分もリンチに参加しようとしたのか、帝人にナイフを突きつけていた男がふらりと傍を離れた。
このナイフさえ落とせば、静雄の足かせになっている自分を解放できる。
渾身の力で縛られた足を伸ばし、全身の体重をかけて男の背後から、タックルを決めた。
「静雄さん!」
男とともに自分の体が倒れ始める前に、声を張り上げて呼ぶ。
それは、待てを言いつけられていた番犬のようだった。
手ひどく痛めつけられ、恐らく何本かは骨が折れているだろうはずなのに、バネのように跳ね上げり、その近くにいた3人ほどをそのままの勢いで殴り倒す。
それは一瞬で、そして圧倒的な強さだ。
それが静雄さんだ。
そう思った。
自分の周りを囲んでいた男達には見向きもせず、その体を進める勢いではね飛ばし、一直線にこちらに向かって来る。
ここまで愚直に自分を求められると、暴力にも一種感動さえ覚えた。
「てめえ、動くなっていったろうが!」
背後から思わぬタックルを受けた男が、ナイフを取り戻すのは、僕が考えていたよりも素早い動きだった。
そして真っ直ぐに自分の方へ向かってくる安易な恐怖に向けてナイフを向けると思っていた男は、なぜかこちらに刃を向けていた。
「止まれ!!コイツがどうなっても!」
恐怖に駆られながら、叫ぶ。どうやら先ほどの絶対的な支配感が忘れられず、彼に自己防衛の基本的な動作を鈍らせたのだろう。
すぐに逃げ出すのが1番であったということを。
「止まれ!!」
恐怖が、その刃に勢いをつけた。
次の瞬間にはバーテン服と天井近くまで吹き飛んでいく男が見えた。
ああ、静雄さんは走らせても物凄く速いんだな。そんなことを思う。
「帝人ぉ!!!!」
作品名:【DRRR】 emperorⅠ 【パラレル】 作家名:cou@ついった