【DRRR】 emperorⅠ 【パラレル】
顔面血だらけで、普段なら少しでも汚されるだけで相当キレる自慢のシャツが、今や見るも無残なほどに赤黒く染まっていた。ところどころ靴汚れや殴られた痕が残っている。
それでも、この人はカッコイイ。
まるでヒーローに見えた。
「帝人、大丈夫か!?クソ、あのやろう」
「…静雄さんの方が…、僕は、大丈夫で」
「大丈夫じゃねぇだろ!ああ、チクショウ、…クソ!!また、俺のせいで!!」
腕に鋭い痛みを覚える。
タックルを決めたときの痛みだろうか、と見てみれば左腕の肩口にナイフを刺さっていた。
ああ、そうだ。
あの吹っ飛んでいった男、最後に僕を刺したんだった。
何だか、非現実的で実感が沸かなかった。
静雄の背後にまだまだ残っていたチンピラが近づいてきている。
逃げればいいものを、すでに大怪我を負わせていることと、無事な人数がまだたくさん残っていることが、やはりさっきの男と同じように判断が狂ってしまっているのだろう。
「…帝人に、帝人に怪我を負わせやがって。よくも、お前ら」
「静雄さ、待って」
「許さねぇえええええ!!」
重い音と何かが折れる音が響き、続いて1つの影が投げ飛ばされた。
さらに続いた者のすべて、自動車事故のような重い衝突音を残し一瞬で飛んでいく。
天井に人がぶつかる音を聞いた。
断末魔のような金切り声があがり、それ以上動かなくなる人影がいくつも重なった。
近くから、穴の開いた袋から空気が漏れる音と、何かがゴポリと零れていく音が聞こえる。
それが人の死んでいく音だと気付いたとき、僕は悲鳴を上げた。
この人を止めなくては。
「静雄さん、静雄さん!!」
出来る限り大きな声で叫ぶが、静雄さんはこちらを気にした様子もなく、ただ憎しみを込めて野獣のように人を狩っていく。
その姿に初めて、この人が怖いと思った。
この中の幾人かはすでにもう死んでいるかもしれない。
怖い。
怯える視界の向こうで、鳴り止まない音が響いていて、それはすでに暴力ではなく破壊。そしてあれはもう、声の届かない獣。
「静雄さん、お願いです静雄さん、聞いて!!静雄さん!!」
届かないと分かっていても叫んだ僕の声は、やはりたどり着くことなく宙に落ちる。
…やっぱり僕は無力だ。
静雄さんを傷つけたのも、止めることが出来ないのも、この先犯罪者にしてしまうかもしれないのも。
全部、僕のせいだ。
作品名:【DRRR】 emperorⅠ 【パラレル】 作家名:cou@ついった