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【DRRR】 emperorⅠ 【パラレル】

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「帝人くーん。そんな勢いよく舌噛んじゃって、血でてるぞー!!全く、食事するところまで俺が世話を焼いてやらなきゃ駄目な子なんだから!」

少し離れたところから見つめていた他の生徒に向けて、正臣はわざとらしく両手を挙げて言う。
一部から笑い声が聞こえ、注目は外れた。
杏里がその様子を何が起こっているのかやはり理解できないまま見守る。

「…まだ、駄目だったんだな…」

優しい手つきで帝人の背中を撫でる姿に、杏里が首を傾げた。
大音量のイヤホンからは音漏れしており、やや遠ざかった幻想的な音楽との不協和音が妙に耳障りだ。

「昔、俺たちが小学生の頃さ、よく覚えてないんだが、帝人が一時期音楽恐怖症になったことがあった。ほんとに一瞬で今じゃ普通に何でも聞くから歌う以外はもう完全に治ったんだと思ってたんだけど」
「音楽恐怖症?」

帝人に聞こえないように小声で話す正臣に、杏里も声を潜めて聞き返す。

「そ。焼き芋屋の歌とか何でも反応して、今みたいにパニクって絶叫してたんだ。今はどうやらあの…」

正臣が少しだけ聞き耳をたてた。
相変わらず校内放送では動画サイトからダウンロードされたのだろうと思われる曲が流れ続けている。それはけして絶叫したくなるようなものではなく、どちらかと言えば呼吸音すら押し殺して無音に聞きたくなるような音。
静かに1人で部屋で聴いていたとしたら、もしかしたら泣いてしまうかもしれない。
それほど、魂の奥底から揺さぶられるように歌声。

「あれに反応したみたいなんだけどな」
「…どうしてそんなふうに?」
「いや…、俺も知らないんだ。あの時、帝人に聞いても帝人のおじさんやおばさんに聞いても、何も教えてくれなかったからさ。それからすぐに俺、引っ越したし」

やがて放送が終わるまで、正臣は地べたに座り込んだ帝人に体をくっ付けてその背中を撫でながら高い空を見上げていた。



放送が終わり、ようやく混乱から帰ってきた帝人は至って普通の顔で

「あれ、もうすぐ昼休み終わっちゃうね。早く教室に戻らないと」

と笑顔で言った。
その表情や態度があまりにも普段と変わらないので、正臣も杏里も違和感を覚えたが、結局彼らも全くいつもと同じ態度で接し、いつものようにふざけ合いながら教室に戻った。

その様子を楽しそうに笑いながら双眼鏡の向こうに見つめている男がいたことには露ほども気付かないまま。