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【DRRR】 emperorⅠ 【パラレル】

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3.情報屋の独白



「帝人くんが、必死になってあの動画を消したときから気になってたんだよねー」
「私に言っているの?」
「もちろんそうだよ、話しかけてるんだから」

臨也の元で秘書として働いている矢霧波江は、楽しそうに椅子を回転させてくるくる回る変態を見おろした。

「独り言でないなら、わかるように話してちょうだい」
「仕方ないなー、もう随分前なんだけどね。すごい形相で走って帰る帝人くんがいたから、何してたのか気になって次の日帝人くんの部屋でネットを探ってみたんだよ。そしたら、とある音楽動画を消すことに躍起になってたみたいでさ。ただの素人が集めた作業用BGM集だよ?変だよねえ。何でそんなにこだわったのか知りたくて、その日にその動画の音楽を校内放送で流させたんだよ」

波江は手に持ったファイルを閉じながら、静かに溜め息をついた。

「あなた、不法侵入が当たり前みたいに言っているけど、彼の自宅でも学校でもそれは犯罪よ」
「貴女には言われたくなかったなぁ。それより聞いてよ、その音楽を流した途端、帝人くんどうしたと思う?ものすごい絶叫を上げて、もだえ苦しみ出したんだよ。俺でさえ目を疑ったね。あんなに取り乱した帝人くんを見たのはアレっきりだ。前の抗争中でさえあんなことなかった」
「…呪いの呪文か何かだったの?」

呆れたというか、信じていない口調で波江は次のファイルを開いていく。
そんな相手の態度に臨也はムッと口を尖らしてくるくる回るのを止め、PCを操作し始める。
やがて、彼のPCにつなげられた高性能なスピーカーから曲が流れ始める。
静かで、仰々しく、神々しく、ケルト調であるようなメロディーではあるが抑えられた弦楽器の響きはどちらかと言えば、聖歌に近い。

「これで苦しむんだから、呪いっていうよりむしろ成仏させられる方なんじゃないの?」

ああ、と波江も呟いた。
この曲調は彼女も聞き覚えがあったのだ。
恐らく20歳以上の日本人なら1度は聞いたことがあるんじゃないだろうか。
彼女がそう思うほど有名で、それが流行っていたころはどこへ行ってもこの歌手の歌が流れていたし、その話題で街もTVも賑わっていた。

荘厳として壮美な神々しいメロディー。
年齢も性別もわからないが、幼い子供と思われる声。当時、日本人の少年だと噂されていた。
幼い印象は与えられているのに、圧倒的な歌唱力となによりその透き通るような響きが人間の心の奥底にまるでまるで酸素のように自然に入り込んで体に吸収され、1つになる感覚。
これが人間の声、と言われても最初は誰も信じなかった。
これは天使の歌声だ。
いや、この声自体が神だ。
地球が終わる様を見守りに来た最期に天界からの使者だ。

様々な推測と希望と想像が織り交ぜられ、飛ぶように売れたCD。
しかしどれだけ探されてもその正体はわからず、音楽会社は完全に黙秘を通し、録音したと思われるスタジオの関係者やその周辺の人々も、分からないかまたは口を噤んだ。
一部では、その莫大なCD売り上げ収入をほとんど歌手が受け取らず、その代わりとして一切の情報の非公開と今後の活動の無期停止、音楽配信の停止を求めたと噂された。
実際、CD以外には何も売り出されず、それ以降は完全にオフィシャルなものは息を潜めた。

「まぁとにかく、この曲を聴いたら完全に我を忘れちゃったんだよねー。あの冷静な帝人くんがだよ?その時は紀田正臣が抑え込んでたみたいだけど」

紀田といえば、今は横浜の方に行っているはずだ。波江は臨也に利用されるだけになりはてた彼に少しだけ思いをはせ、そしてすぐに忘れて、ファイルに書類をとじ始める。
そんな様子を見て、何が面白いのか相変わらず情報屋は三日月のように口をゆがめて笑った。

「それでね、それ以来調べてたら、どうも彼、ちょくちょく”エンペラー”の動画とか違法な音楽配信を消し回ってることが分かってね。どうやらこの”エンペラー”が彼にとって何か重要なポイントみたいでさ。曲がトラウマにでも関係しているのかと思っていたんだけど」

ククッと、心の底から楽しそうな卑屈な笑いをもらして、再び椅子に両足を上げ、机を掴んで勢いよく回転し始めた。
その様子はどうみても人の不幸を喜ぶ悪戯好きで最低の子供がそのまま大きくなって最低の大人になった図である。まさにその通りなのだが。