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まるてぃん
まるてぃん
novelistID. 16324
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連綿たる始まり ~13 years ago~

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いつもパリスは口元にうっすらとした微笑を浮かべている。
それは心からの笑顔ではなく、相手の警戒心をやわらげ、それと同時に己の本心を隠すための仮面でもあった。その仮面をこのような誰もが通りがかる王城の廊下でパリスが取り外したことに、コルトンは言い知れぬ不安を感じた。

今回の事件は、自分が思っている以上に深刻な事態なのかもしれない―――。

事件のあらましについては、配下の者に集めさせた情報からだいたいのことは把握しているものの、やはり政治の実務に携わっているわけではないコルトンには知りえない部分はいくらでもある。
そうした部分を政治の第一線で活躍しているパリスが知っていたとしても、何もおかしなことはない。そしてそのために彼がこのような常にはない顔を見せているのだとしたら、事態は相当に深刻なものなのだろうと推測された。
コルトンは少しばかり緊張した面持ちで、パリスのあとに続いて彼の執務室へと向かう。
だが、パリスが己の執務室の扉に手をかけたところで、コルトンはそっとその腕を押さえて彼の動きを止めた。

「コルトン殿…?」

パリスが訝しげに友の顔を見返す。
それにコルトンは口元に人差し指を立てて答え、低い声で問いかけた。

「どなたかご来客中か?」

問われた意味がわからずに、パリスが首を傾げる。

「いや。このような朝早くから、私の部屋を訪ねてくる者などいないはずだが―――」

その言葉が言い終わるや否や、コルトンは音もさせずにドアノブを回すと、勢いよく扉を押し開けた。
脇にいたパリスを押しのけ、腰に差した剣をすぐにも抜刀できるように構えつつ、勢いよく部屋の中へと踏み込む。
主の了承も得ずに勝手に部屋に上がりこんでいた「何者か」に鋭い視線を向けたところで、コルトンはその後に取るべき行動に迷った。
視線の先には、パリスによく似た面差しの青年が立っていた。
いや、青年というにはまだ若い。だが、少年というにはその表情は鋭すぎる。
侵入者はコルトンと同じように、わずかに腰を引き、剣に手をかけ、いつでも切りかかれる体勢でこちらに射るような眼差しを向けていた。
その隙のない構えに、コルトンは一瞬今の状況も忘れて、相手の技量に感心する。
少年の腰に差された剣や服装を見る限り、どうやらクールーク皇国の軍人のようである。目の前の相手は、国から支給される一般的な士官用の装備を身につけていた。
どうやら招かれざる客には違いないが、不審者というわけでもないらしい。
コルトンがわずかに肩の力をゆるめた時、背後で乱暴に扉を閉める音が響き、直後ににわかには信じがたい怒声がこだました。

「トロイ! このようなところで何をしている!!」

コルトンは驚いて背後を振り返った。
部屋の中へと入ってきたパリスは、誰の目から見てもそうとわかるほどに怒りをあらわにしている。
つい先ほど微笑を浮かべないパリスの顔に驚いたばかりのコルトンだが、今度の驚愕はその比ではなかった。
いつでもポーカーフェイスを崩さず、一部の貴族の間では「狐」呼ばわりされているあのパリスが、まるで取り繕う様子も見せずに素の表情でそこにいる。
彼とは何度か本音で語り合ったこともあるが、ここまで顕著に表情を変えたところを見たのはコルトンにしても初めてだった。
トロイと呼ばれた少年は、パリスの姿を認めると、剣の柄から手を離す。
そしてコルトンに向き直り、礼儀正しく頭を下げた。

「失礼いたしました。父上のお知り合いの方だったのですね? 私はパリス・ランバードが長子、トロイ・ランバードと申します。突然のことに驚いたとはいえ、貴方様に剣を向けかけたことをどうかお許しください」

そのどこまでも礼儀にかなった物言いに、コルトンは奇妙な引っ掛かりを覚えた。
それはこの歳の少年が繰り出すにしては長じた言葉づかいだったが、その声にはまるで熱がこもっていなかった。まるで与えられた台本を読んでいるかのようだ。だいたいこの状況下で、すぐにそのような言葉が浮かんでくることからして奇妙なことである。コルトンでさえとっさには状況を理解できず、どのような言葉を返すべきかと迷っているというのに。

「トロイ! こちらに来なさい」

先ほどよりかはやや落ち着いた声音で、パリスが少年の名を呼んだ。
トロイは父親の言葉に反抗せず、おとなしく彼のそばに歩み寄る。

「…失礼した、コルトン殿。恥ずかしながら、今これが申したように、私の息子のトロイだ。海軍の第一艦隊に所属している。今後何かと世話をかけることもあると思うが、よろしく頼む」

親子ともどもに頭を下げた相手に向かって、コルトンもゆるやかに一礼する。

「私は第二艦隊の副司令官を務めておりますコルトン・ゼペウスと申します。ランバード卿のご子息が第一艦隊に所属しているとは聞き及んでおりましたが、はからずもこの場でお会いできたことを光栄に思います。以後、何かと顔を合わせる機会があるやもしれませぬが、その時はどうぞよしなにお願いいたします」

コルトンは、使い古された社交辞令を口にのぼらせた。
実際には同じ海軍であっても第一艦隊と第二艦隊では、そうそう顔を合わせる機会などない。よほどに大規模の海戦でもなければ、ふたつの艦隊が合流して戦うようなことにはならないからだ。
現に、トロイが士官学校を卒業して正式に軍に所属してから、すでに三~四年は経っているはずだが、コルトンが記憶するところでは、少なくともこれまでにトロイと顔を合わせたことは一度もない。この三年の間で軍にいて出会わなかったのだから、この先三年間もまた会わない可能性は高いだろう。
そのようなことはこの場にいる誰もが承知していることだったが、それを指摘したところで礼儀に失するだけのことなので、あえて口を挟むようなことはしなかった。
貴族社会では相手を重んじることも、立派な職務のひとつである。
形式ばかりにとらわれて内実のともなわない貴族というものにコルトンもパリスも辟易しながらも、決して礼儀を軽んじたりはしない。それにこうした礼儀作法は、貴族社会の縦と横の糸をつなぐのに非常に有効な手段でもある。そのあたりをきちんとわきまえている二人だからこそ、こうしてコルトンは軍部内で、パリスは政府内でそれなりの権限を得る立場にいたった。