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ラブレター

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Guilty -罪-




 彼はいつだって正しくて、真っ直ぐで、ぴんと伸びた背筋も張りのある声も、決して逸らされない碧眼も、彼を形作るすべてのものが綺麗だ。
 けれど時々思う。その綺麗さは欺瞞ではないかと。
 彼は美しかった。けれど、きっと彼を想う人間にとってはその美しさは障害。輝けば輝く程浮かび上がる影は濃く、深く。それはまるで、無造作に踏みつぶされる雑草の悲鳴のような哀れさだ。

『跡部が好きやねん』

 そう云った男がいた。
 言葉の割に至極あっさりと、熱も籠らぬまま淡々と呟いたそれは、一見なんかの冗談なのかと流してしまいそうになるくらいで。けれどそんなことをシャレで云うような相手でなければ、冗談を云っている表情でもなかった。ただただ淡々と、まるで当たり前のことを確認したような当然さが込められていただけ。でもそれが、彼の想いの深さを浮き彫りにしているようで、その時自分は何故か酷く安心したのを憶えている。
 このどこか煮え切らない、変に冷めて熱くならない相棒に、彼はこんな顔をさせてしまうのかと、妙に感心してみたり。そしてそんな相棒の姿に、ひっそりと安心してみたり。


 侑士が跡部をいつから好きだったのかなんて、そんなことは知らない。何が切っ掛けで想いを寄せるようになったのかも。けれどそれから侑士の態度が変わったのは確かで。いつもどこにいても彼の視線の先には跡部が居たし、見当たらなければうろうろと視線が迷っている。
 明らかに表に出る表情が柔らかくなったし、他人との接触に対して存在していた膜が薄くなった。そして何よりも跡部の影響からか、テニスに真摯に取り組むようになった。この変化は自分にとっても歓迎すべきことだったから、単純なおれは純粋に喜んだ。
 それが少し陰ったのはいつ頃からだろう。
 気がつくと、侑士は時折荒んだ眼をすることが多くなった。
 気がつけば、以前はなかった焦燥が顔に表れて、ずっと苦しげに跡部を見ていることが多くなった。
 そんな辛そうな顔するくらいなら、いっそ全部ぶちまけてやればいいのに。
 見るに見兼ねてそう云ったおれを、侑士は仕方なさそうに笑うだけで取り合ってはくれなかったけれど。
 でも本当は知っている。
 侑士が臆病だから云わないんじゃない。跡部自身が云わせないだけなんだと。
 あの誰よりも正しくて、真っ直ぐで、そしてそれゆえに残酷な跡部。
 きっと、跡部はとうに気付いているはず。自分が侑士を狂わせているのだということを。そして侑士もそのことを知っている。
 それでなんでもっと歩み寄れないのかがとても不思議で。何故ならその関係の延長線上には同じ想いが存在すると思ったから。でも現実はそうはならず、以前と変わらず、いや、前よりもっと侑士の乱交は激しくなり、それを見る跡部の顔も険しくなる一方だった。

『忍足が誰を好きだろうが、俺には関係ないし関わる気もない』

 何時だったか、跡部がそんな言葉を零したことがある。
 その云い草はあまりに酷くはないかと詰め寄った自分に、跡部はしばらく沈黙した後、疲れたように、
『アイツのことは好きだぜ。それは嘘じゃない。けれど、真実でもない』
 その告白はとても曖昧で、もし侑士が聞いたら哀しむだろうとしか思えなかった。でも今にして考えれば、本当に振り回されていたのは跡部の方だったんじゃないだろうか。あの、侑士の重すぎる気持ちを覚悟なしには受け止められないから。だから時間を稼ぐように不自然な態度を取り続けるのだろう。そしてそれは、侑士も判っている。恐らく。
 なんて、なんて面倒臭い二人なんだろう。互いに好きならそれでいいじゃないかと思うのは、自分が単純にできているからなのだろうか。
 序でにこんなことを延々と考える自分も、相当な暇人だと小さく溜息を吐いた。




 いつだって正しくて、真っ直ぐで、ぴんと張った背筋も、低く張りのある艶やかな声も、冴え冴えとした光を宿す碧眼もすべて綺麗なもので構成されている跡部
 でも時折それらすべてが欺瞞ではないかと疑ってしまうことがあった。
 跡部の一点も醜い染みなどない美しさは、彼を好きな者にはむしろ障害なのではないかと。その正しさで、真摯な姿勢が他者を踏み躙る罪深い姿にしか見えなかった。
 でも、本当は違う。
 追い詰められているのは跡部自身。真っ直ぐで、何に対しても正しいがゆえに逃げることもできず、向き合おうと足掻いている。

 想いを返されずにもがき苦しんでいる者と。
 同じ気持ちであるのに、自分とのズレに苦しみ受け入れ兼ねている者と。

 一体どちらがより苦しく、そして罪深いのか判らなくて、また一つ、溜息が零れた。


作品名:ラブレター 作家名:桜井透子