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ラブレター

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Anxious -躊躇-





お願い、一度だけでいいから、

愛していると云って――――。


 何気なく観るともなしに観ていた映画のヒロインから洩れたセリフに一瞬ぎょっとさせられた。
 別に、そう請われたわけじゃない。むしろアイツは人の気持ちなんかお構いなしに自分の気持ちを押しつけては勝手に気持ちよくなっているだけで。
 一度も返されない返事に不安は持たないのだろうか。そう考えはするものの、結局自分はこの先も伝えることはないだろうし、また相手もそんな口先だけの言葉なんていらないに違いない。
アイツが欲しがっているものは曖昧な言葉なんかじゃなくて、もっと、確かなもの。けれど今の自分にはそれに応える術がない。
 アイツ程の覚悟なんて早々に出来るわけもなくて。
 酷く厄介な男に好かれたものだ。でもそれより厄介なのは、そのことを厭だと思っていない自分自身。
 「俺もお前が好きだ」と返すのはとても単純明解で、それほど難しいことじゃない。でも云わない。云ってどうなるものでもない。喩え告げたとしてそれからどうする。付き合うのか?普通の男と女のように。付き合って、キスして、セックスして、それから?それからどうする。未来のない関係は長続きしやしない。それくらいならいっそこのまま、友達のままでいた方がいいんじゃないだろうか。そんなことも思いはするけれど、ふと振り返ってみれば自分達が〝友達〟だったことなんて一度もなかったことに気が付き、なんとも苦い気持ちに襲われた。
 同級生やチームメイトと云うには収まりが悪く、友達と云うには近過ぎて、恋人と呼ぶには遠い。上手く表せないこの存在のことは何と云えばいいのだろう。

『お願い、好きだと云って』

 この映画の恋人達のように、もっと簡単な関係だったら良かったのに、と、思わずにはいられなかった。




『お願い、一度だけでいいから、愛していると云って』

 授業の一環で観せられた安っぽい恋愛映画の、ヒロインのセリフに一瞬ぎょっとさせられた。
まるで自分の願望を云い当てられたような気がして。
 何度も何度も好きだと云って、その度に満たされない想いから眼を逸らすように他人を求めた。
跡部も、そして自分自身すらも裏切り続ける。そんなことの繰り返しに、どれだけ不実なんだと自分でも呆れ返るくらいで。それでも簡単には止められなくて、すぐにぐらつく心の均衡を保つために抱き続けた。その度に、脳裏に彼の清冽な姿が浮かんで慚愧の念を噛み締める。
 何故、彼でなければならないのだろう。
 擦り切れる程に考えた疑問が再び甦る。でもそんなことはいくら考えたって明確な答えなど出せるはずもなく、結局は、また好きだと感じることに上手く理屈を填められないまま徒労に終わるのだ。
 感情に理屈をあてがうのはナンセンスだという。けれど実際は、曖昧な感覚をそれでよしと出来ない人間が試行錯誤し、納得いかなかった際の云い訳でしかない。そうと判っていても見つけるのは難しく、また見つからないと判っていても考えずにはいられない。自分もまた、その内の一人だと云うだけの話。

『お願い、好きと云って』

 言葉が欲しくないわけじゃない。一番判りやすく簡単で、しかも時に重要なアイテムになるのが言葉だ。貰って嬉しくないわけがない。求めていないわけでもない。ただ、それを聞くには躊躇を感じてしまうだけ。
 こんな自分が聞いていいものなのだろうか、と問わずにはいられない。
きっと、その言葉を聞いてしまったらもう自分を止めることは出来ないだろう。多分、跡部がどれほど想ってくれたとしても、浅ましく貪欲な自分は完全に満たされることなく、搾取し続けて疲弊させてしまう。厭だと云われても放せないし放す気もない。足りない、足りないと常に飢餓を訴えてはこの腕に縛り付けて誰の手も、眼も触れない処へと堕としてしまうかもしれない。
 それはもう愛だとか恋だとか綺麗なものじゃなく、ただの妄執。凝り固まった執着の行き着く果て。
 狂っている。そう理性は叫ぶのに、もう半分はそうすることの安寧と充足に惹かれているのも事実。
 想像が現実のものとなる予感。そんな微かな予知に怯え、躊躇って一歩を踏み出せないでいる。

『好きだと云って』

「好きやで……」

 自分にはもう、このたった一つの言葉しかない。これだけしかあげられる物がない空っぽの身体。
(欲しいなら、いくらでもあげるから)
 だから、どうか、否定だけはしないで欲しい。
 そう願うことも、自分には過分なことなのだろうけれど。


作品名:ラブレター 作家名:桜井透子