結婚狂騒曲2
《第4楽章》
破滅の音をたてる教会から必死の体で逃げ出したツナヨシは、ふらつきながらも逃亡を再開する。しかし、外に出たとたん
「ボス、どこいくの?」
「ク、クローム・・・・ごめん!見逃してー」
「あ、逃げたぴょん!追いかけるびょん!」
「めんどい・・・」
「ムクロ様に怒られるよ」
「待つびょん!ボンゴレーーーー」
「んぎゃーーーー勘弁してーーーー」
こうして、ふたたび不毛な負いかけっこがはじまったのである。
それにしても。
クロームに無理やり着せられた、このウエディングドレスの走りにくいこと、走りにくいこと、この上ない。長い裾は持ち上げなければまともに前へも進めないし。ワサワサと風になびくベールはうっとうしい。
度重なる疲労に心労、無情な虐待のせいで、いい加減体力も限界だった。
(も、ヤダ。ホント助けて・・・)
わさわさとドレスが足にまとわりつく。体勢を立て直そうと気付いた時には遅かった。足に裾がからまり、もつれ、ツナヨシは地面に転がった。
「やった!捕まえるびょん!」
「ひぎゃーーー!」
飛びかかってくる犬にツナヨシの顔が引きつる。
しかしその時、
「十代目!伏せてください―――果てろ!」
「ぎゃん!」
聞き慣れた声とともにダイナマイトが炸裂。犬を吹き飛ばした。
そして、猛スピードの車がツナヨシの前に突っ込んでくる。急ハンドル。ドリフト。急停止。たちこめる土煙をかきわけて、車内から颯爽と登場したのは、獄寺と山本だった。
「十代目!助けに来ました!」
「ツナ、待たせたな!」
「獄寺くん!山本!」
頼りにする右腕と親友の登場に歓喜の声をあげ、ツナヨシは二人に駆け寄る。
が、駆け寄ってくるウエディングドレス姿のツナを見ると二人の一切の活動は停止した。
――――絶句。
しかし一瞬にして回復した二人は、獄寺がツナの右腕を、山本が左腕をガシッとつかむと、
「じゅ、十代目!絶対幸せにします!!」
「めちゃくちゃカワイイな、ツナ。こりゃ、子どもの顔が楽しみだな」
――――沈黙。そして両者、激しい睨み合い。
「てめ、山本。なに勝手述べてんだ!果たすぞ、こら」
「獄寺こそツナが嫌がってるじゃねぇか」
「んだ、コラ」
またしても身に覚えのない状態で、どんどん険悪になる空気にツナヨシはげんなりと顔をしかめる。
「そんなことより、クローム達が追いかけて来てるから!
車出して!」
「は、はい」
ともかくも敬愛する十代目を回収し、獄寺はアクセルをぐんと踏み込んだ。
砂を巻き上げ急発進する車。必死で追いかけるクロームと千種の姿が小さくなっていく。
ホッと息をついたツナヨシは改めて二人に感謝の意をむける。
「助かったよーホントありがと!獄寺くん、山本。
けどよくここがわかったね」
「こんなこともあろうかと、発信器を仕込んで置いてよかったス」
「は?」
「いやー、信号がとぎれた時はあせりましたが、幸いヤツラがハデに暴れてくれましたので、おかげで見つけることができました。アイツらでもたまには役にたつんスね。ははは」
「獄寺・・・・」
敬愛する十代目に誉められ、調子に乗ってペラペラと話す獄寺と硬直した笑顔のツナヨシを見て、山本はあちゃーと手で顔を覆う。
「そうなんだ。ホント助かったよ、獄寺君。
で、発信器ってどこに仕込んだの?」
「あ、十代目の靴底っス」
ピシッ。とたんに車内の空気が凍り付く。
どうやらこの過保護な守護者とは一度きちんと話をする必要がありそうだ。
「ふふふ・・・・あとで覚えとけ」
絶対零度の笑みを浮かべツナヨシは囁いた。
ルームミラーにその笑みを目撃した獄寺は凍り付き、山本は賢明にも寝たふりで誤魔化した。
「じゅ、十代目!!こ、この近くに避難場所を確保しましたので!とにかくそちらへ」
あわてて獄寺は運転に専念し、車内は微妙な沈黙に支配されたのだった。