you are my hero.
臨也は些細な悪意をいとおしみ、人を見下し、もてあそんでいた。だが、そうは言っても、それは高校生のレベルだ。そこそこ能力が高くて、勉強や部活を思い通りにこなせて、自分を特別だと思ってる、何もかもを思い通りにできると思っているちょっと痛い高校生、珍しくもなんともない。臨也は、それが極限まで研ぎ澄まされたレベルだったと仮定しても、高校時代にはじめのうちは、まだ、『質が悪い』くらいのものだった気がする。
それがああまでゆがんでしまったのは、平和島静雄の、巨大な孤独に触れたからではないのか、新羅はそう思う。
誰もが静雄にあこがれ、恐れながらも彼の武勇伝を語る。しかし、誰も近づこうとはしない。それは、彼の気持ちを推し量ることができないからだ。彼は正真正銘モンスターだ。人間のレベルでは相手にできない。誰も、彼の孤独を埋めることも、彼を理解することもできない。それでいいのだ。それで普通なのだ。
しかし、臨也はそれをやろうとしてしまった。彼にかなおうとして、彼を理解し、手中に収めようとしていくうちに、あらゆる領域をどんどんと踏み越え、瞬く間に歪んでいった。悪意を向け、操作しようとすればするほど、静雄はそれを越える敵意を向け、驚異的な暴力を振るう。
「すべてを理解できるのが、愛じゃないのにね」
新羅は一人呟いた。
どんなに愛していても、永遠の愛や友情を誓っても、相手を完全に理解することはできない。同じ悲しみや喜びに浸ることはできない。
愛とは、許すことだ。自分の人生を歪めてしまったかもしれないモンスターを、歪みに気づきつつも、逃げられなかった自分を。相手を、理解しきれないことを。
世界で一番愛おしいモンスターを、新羅は引き寄せる。自分がゆがんでいることは知っている。セルティがいなければ、自分の人生は、もっとまともだったかもしれない。でも、新羅はそれを、セルティを、自分を許している。
臨也は、自分を歪めたモンスターを憎んでいるのだろうか。それとも。
「でもまあ…他人には、止められないよね」
たちが悪いのは、結局、静雄に合わせてゆがんでいくことで、臨也は、自分と同じレベルの妄執を、静雄から獲得してしまったことだ。
作品名:you are my hero. 作家名:さわたり