you are my hero.
臨也は、声を出して笑ってしまいそうなのをこらえる。彼が、その強さに加え、些細なことで大変切れやすい性格であることも、繰り返し聞かされている。こういうタイプを、言葉で丸め込もうとするのは得策ではない。まずは様子を見るべきだ。
にっこりと、自分のレパートリーの中でも特に無害と思われる笑顔で、臨也は近づき、その横に腰掛ける。屋上全体に張り巡らされたフェンスの近く、金網の向こうから風が吹いてきて、二人分の髪の毛を揺らした。
「喧嘩を売りたいわけじゃないんだ」
見透かされたような一言に、静雄が当惑する。間近で見ると、声と同じく、ずいぶんと素直そうな、子供のような瞳をしていた。
「あれ、平和島君って、結構ハンサムだね」
「はあ?!」
うわ、こめかみに青筋浮いてる。生でこんなもの見るの、初めてだ。
平和島静雄の沸点に微妙にかすった事実に少し身を引きつつも、それは臨也の(珍しく)素直な感想だった。
噂をから想像するのとは、背格好もそれほどたくましくもないし、間近で見る顔は、中性的に整っていた。臨也自身も、幼少の頃から、容姿についてはほめそやされてきたが、どちらかというと無難に整っている自分の顔と比べて、華のある、人目を引く顔立ちであった。
そういえば、弟が芸能人だったっけ?
かき集めた情報の中でヒットした項目を、しかし口には出さなかった。あまり最初から、なにもかも知っています、などと言ってはいけない。怪しまれるだけだ。
「いや、そう思ったからさ。へー」
眉間にしわを寄せているものの、臨也の意図が読みきれない静雄は動かない。
「キミと友達になりたいんだ」
再びこめかみに青筋を浮かべて、はあ?!と同じことを繰り返す静雄。その声は、高校生らしからぬドスがきいていて、普通の人間ならばこれだけでビビッて逃走してしまうかもしれない迫力があった。だが、間近でその表情を見ると、単純に『よくわからないことを言われて戸惑っている』らしいことは、人間観察に長けた臨也には理解できた。
「だって、かっこいいじゃん。大人相手の喧嘩にも負けないくらい、強いって聞いたよ」
無邪気な少年を装ってみせる。
「俺のは、そういうレベルじゃねえ」
悪いことは言わない、と繰り返す。
「第一、喧嘩したくてしてるわけじゃねえ」
臨也の、表面上は毒気のない反応に、ややクールダウンした静雄が、ぷいと目線を外して、地にやる。
作品名:you are my hero. 作家名:さわたり