you are my hero.
「静かに…平和に暮らしたいんだよ。名前と同じに」
名前負けも極まれりだと、周囲の評判は本人にも届いているらしい。いや、自分自身でそう思っているのかもしれない。
忌々しげに震えるまぶたは、多分、彼の体の中に抑え込まれている鬱屈を表している。
面白い、ああ、人間って、本当に面白いなあ。
上等なおもちゃを見つけた喜びに震えながら、静雄の逆鱗に触れないよう、言葉を選びつつ、臨也はたわいのないことを話した。静雄は、言葉少なに、また、表情も大して変えることなく、でも、おとなしくそれを聞いていた。
臨也は静雄のことを念入りに調べ上げていた。その最強伝説を作り上げてから、誰をも寄せ付けず、友人らしい友人もおらず、家族すら遠ざけ始めている彼にとって、このような時間がどれほど貴重なものか。静雄の逆鱗に触れることなく、穏やかに会話を続けられる人間がどれほど希少で…彼にとって、どれほどかけがいのないものになるか。
すべてをわかっていて、近づき、完璧に演じてみせた。
静雄は、すぐには折れなかった。はっきりそうとは言わなかったが、自分のそばにいることで臨也に害が及ぶことを気遣っているようだった。臨也はそれを受け流した。俺はうまく立ち回れるから、と。実際、臨也は必要以上に静雄といることはなかったし、すでに、気の利いた性格と無害で整った容色で、生徒にも教師にも信頼を置かれ、静雄と話しているところを見られただけで注意されるようなこともなかった。
屋上に臨也が来ること、静雄の分の弁当を買ってくること、その逆を静雄がすること、そんなことが、段々と、当たり前になっていった。その過程で、臨也は静雄の情報をずいぶんと手に入れた。臨也にとって、相手の情報を入手することは、弱みを握ることと同義であった。後々、思う存分遊び倒すために。
簡単すぎるな。
そう思いながらも、久しぶりに『大物を釣り上げた』実感に、臨也は充足感を覚えていた。
そしてもうひとつ。
誰も寄せ付けないゆえに、臨也とはま逆…、情報に頼らず、知らず、無知で…無垢な静雄の有様に。
暖かく、癒されていくのを。
おそらくは―――――はっきりと、自覚していた。
***
穏やかな時間は、そう長くは続かなかった。
作品名:you are my hero. 作家名:さわたり